100円玉に見いだした「神仏の愛」
得度の後、稲盛は山陰、四国、信州、東北などを歩いて托鉢をしている。その修行中に興味深い話がある。托鉢をして歩く稲盛に、年配の女性が100円玉を差し出した。「これでパンでも食べてください」。稲盛はその優しい心に幸福を感じ、神仏の愛を見いだしたという。
私財で財団をつくり、「京都賞」を創設し、与える側に立ち続けた人が100円をもらう側に立つ。金額で言えば100円は大きな額ではない。だが、稲盛を気遣って差し出された100円は金額では測れない。「なんまん、なんまん、ありがとう」と唱え続けた男が最後にたどり着いたのがこの100円というのは、できすぎなくらい筋が通っている。
「経営の神様」と聞くといつも答えを持ち、誰にも寄りかからずに立っている姿を思い浮かべる。だが、実際の稲盛には、教えを請う老師がいて、子どものころの念仏があって、100円玉を差し出してくれる人がいた。頼られる男も、支えられて生きていた。
「神に祈ったか」と部下に問うた男は、自分でも祈っていた。そして、その祈りは、お願いではなく、ありがとうだった。
参考文献
大田嘉仁『それでも天を敬い、人を愛す。』ビジネス社、2025年
「本邦初 稲盛和夫×鈴木敏文 白熱対談150分『なぜ、あなたは変われないか?』」『プレジデント』2015年10月5日号、22〜37ページ
「ストーリー:稲盛和夫氏の『磁力』(その2止) 稲盛哲学の原点、心の経営と徹底したリアリズムと」毎日新聞朝刊、2013年9月8日、4ページ
北康利「コロナ危機の今、思い出したい『経営の神様・稲盛和夫の名言』」プレジデントオンライン、2020年7月26日
川岸徹「特集2 30代からの稲盛和夫―稲盛和夫ができるまで―数々の局面でこう考え、こう動いてきた」『日経ビジネスアソシエ』2014年7月10日号、90〜93ページ
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