先を見通すのが難しい今、稲盛和夫はどんな言葉を語るのか──。稲盛氏の評伝『思い邪なし』の著者で作家の北康利氏が、稲盛氏がこれまで残した金言と、その裏に隠された経営の神髄を解説する。

頂点を極めた人に共通するもの

私はこれまで、さまざまな分野で頂をきわめた人たちの評伝を書いてきました。彼らには共通点があります。それは、人間の本質をつかんでいるというところです。経営であれ、政治であれ、教育であれ、それらはすべて人間の営みなのですから、人間というものは何かがわかっていなければ、成功を収めることはできません。

常に「人間とは」と問い続け、それを伝える言葉を磨き続けてきた京セラの創業者・稲盛和夫氏の発する言葉にも、真理が宿っています。

かつて、日本と中国の間で尖閣諸島の領有権問題が過熱した際、中国では反日運動が起こり、本屋から日本関連の本が軒並み撤去されました。ところが、稲盛氏の本だけは最後まで残されていたそうです。また、近年日韓関係が悪化してもなお、京セラ本社ビルの隣りにある稲盛ライブラリーには、多くの韓国人が訪れています。稲盛氏が海外の人たちをも魅了してやまないのは、彼の哲学や成功法則が日本だけでなく、世界で通用する証拠です。