ローンが終わっても支払いは終わらない
柴崎さんはその時、初めて気づきました。
「このマンションとの支払いの付き合いは、まだ終わっていない」という現実に。
定年後の生活が始まって数カ月後、柴崎さんは毎月の支出を見て不安を覚えました。
「こんなに出ていくのか……?」
柴崎さんは、ローンが終わっても支払いは終わらないという現実に、初めて気づいたのです。住宅ローンの返済は予定通りですが、問題はその周辺にありました。
管理費、修繕積立金、駐車場代。それらを合計すると、毎月およそ5万円の固定費になります。そして追い打ちをかけるように、ある日管理組合から通知が届いたのです。
「大規模修繕に伴い、修繕積立金が月額1万5000円へ増額となります」
一時金30万円ご負担のお願い
さらに別紙が入っており、そこには「一時金として30万円ご負担のお願い」という文字がありました。
加えて年に一度、固定資産税の納付がやってきます。
「これじゃあ、賃貸と変わらないじゃないか……」
柴崎さんは思わず恨み言を漏らしていました。むしろいつ修繕費が上がるか、臨時徴収があるかなど、不確実性を考えると、賃貸よりもコントロールしにくい側面すらあります。
そして何より重いのが、65歳まであと5年、年金が出ないという現実。
収入は激減。しかし支出は減らないどころか、むしろ増えていく……。
「いっそ売るか……」
ある晩柴崎さんは美智子さんの遺影を前にしながら、そんな風にひとり言をつぶやいていました。
部屋の中を見渡せば、美智子さんと長年暮らした思い出がいたる所に残っています。部屋を出て行くことは、美智子さんとの思い出を捨てることのようにも感じていました。
「それに一体、この歳でどこに住むのか……?」

