批判も多いシルバーパスの本当の目的
なぜなら実験で得られたデータは東急全体にフィードバックされることになり、渋谷を中心に構築されている東急の路線バスにも反映される。さらに、多摩田園都市の利便性を維持することは、田園都市線の人口維持という目的を含む。これは街の活性化や沿線価値にも影響を及ぼす。
また、交通弱者を支援するという福祉的な使命を帯びているので行政の理解も得られ、助成金などの金銭的な負担のみならず、許認可といった面でも協力を取り付けやすい。行政側に目を転じると、高齢者に外出を推奨することは寝たきり防止にもつながり、それは介護・医療費の削減といった効果も得られる。
昨今、高齢者を対象にしたシルバーパスを高齢者優遇だと非難する向きもある。シルバーパスの原資は税金であり、それは現役世代が負担しているから、不満が出るのも理解できる。
しかし、シルバーパスは単に高齢者の移動費を低廉化する優遇策ではない。大局的な観点で考えると、外出することを習慣づけることで医療・介護といった公的支出を減らそうとする目的が隠存している。
東急の多摩田園都市にかける再生への意気込みは、虹ケ丘・すすき野エリア以外でも垣間見ることができる。その一例が、こどもの国線だ。
渋谷への通勤線化を横浜市が後押し
同線は長津田駅からこどもの国駅まで延びる約3.4キロメートルの支線だが、両駅間に駅はなかった。目的地でもあるこどもの国は旧陸軍の軍事施設だった地を戦後にアメリカ軍が接収して使用していた。
同地が返還されるのに伴って児童福祉施設として整備され、アクセスを担うこどもの国線が1967年に開業した。こどもの国線は沿線が宅地化しているわけでもなく、こどもの国を除けば集客施設はほかにない。
そのため、同線は土休日に多く運転されるという東京圏では珍しいダイヤになっていた。つまり、同線は実体的にこどもの国という施設に付随する専用線という位置付けになっていた。
東急が多摩田園都市の開発に傾注した結果、結節点の長津田駅周辺が発展を遂げることになり、それはこどもの国線の宅地化としても波及していく。横浜市も住宅地の開発計画を策定して、沿線の宅地化をサポートした。
横浜市は田園都市線で渋谷方面へと通勤できるといった点に着目。横浜市がこどもの国線一帯の宅地化を支援することは自然な流れでもあった。
宅地化が進められていったことで2000年に同線で通勤線化という施策が始まる。通勤線化の具体的な取り組みは、両駅の中間に恩田駅を新設して利便性を高めるとともに同駅で列車の行き違いが可能になることで増発にも対応できるようになった。それは若い世帯への訴求力を発揮する意図されていた。

