高齢化が深刻な虹ケ丘・すすき野エリア

高齢化を放置すれば街からは活気が失われ、それは住民たちの消費行動にも影響を及ぼす。消費行動はそのまま経済にも打撃を与える。開発主体の東急にとっては、後背地ともいえる沿線ベッドタウンの衰亡は渋谷の存立にも関わる一大事となる。

テコ入れを図るべく、東急は近年になって駅からの2次交通の充実・拡充に力を入れることで再び活気を取り戻そうとしている。

多摩田園都市は域内が広大なために街ごとに住民の特性は異なるが、昭和30〜40年代にかけて開発された横浜市と川崎市にまたがる虹ケ丘・すすき野エリアは、特に高齢化が目立っていた。同エリアが抱える問題は高齢化率という数字で可視化されるものだけではなく、交通弱者を多く抱えているという点にもあった。

虹ケ丘・すすき野は最寄駅から遠いことを理由に、近年はファミリー世帯が敬遠する傾向にあった。問題はそれだけではなく、丘陵地に造成された団地群も解決するべき課題を抱えていた。

同エリアの団地群は、高度経済成長期に建てられた5階建てのエレベーター未整備の住棟が多い。駅からバスに乗り、至近のバス停で下車した後も勾配のある坂を5分以上も歩き、団地に到着してからも階段を登る――住み始めの頃は大して気にならなかった移動も、長らく居住して高齢化した住民たちにとって大きな負担になっていた。

2次交通で「引きこもり」を減らす

そうした困難はしだいに心理的なハードルにもなり、外へと出歩かなくなる。外へ出歩かないと、心身に支障をきたし、それは介護・医療という面で負担を増大させる。もちろん、莫大な税金を投入することにもなる。

そうした問題を解消するべく、東急はバス停から団地までの2次交通の整備に乗り出した。多摩田園都市は鉄道駅からバス停までの路線バスネットワークが充実している。それでもバス停から団地までには徒歩5分以上を要する。

これは、いわゆる“ラストワンマイル”問題とも呼ばれるが、交通弱者の外出を遠ざける要因でもあり、これがバス停から団地までの2次交通となるバスの整備を焦眉の急としていた。

既存の路線バスでも採算が取りづらいのに、“ラストワンマイル”解消のバスは域内人口が少なく、当然ながら需要も少ない。採算性だけを考えれば運行は非現実的だが、自動運転技術を用いれば人員を効率化でき、運行経費を下げることで採算性のハードルを下げることができる。

こうした考えのもと、東急は自動運転を実証実験する場として虹ケ丘・すすき野エリアを選定。自動運転の実用化・事業化に試行錯誤を繰り返した。

実証実験を行う自動運転バス
写真撮影=小川裕夫
実証実験を行う自動運転バス

自動運転の実証実験は、それだけを見れば東急にとって採算の取れない事業ではある。しかし、同実験はそうした近視眼的なものではなく、将来を見据えた中長期的な取り組みでもある。