「話してもいい相手」になれているか
その後も、うまくいかないことは何度かありました。
私「何か困っていることはない?」
メンバー「特にありません」
このように、なぜか形式的なやりとりで終わってしまうのです。正直に言うと、「なぜ話してくれないのか?」と不満に思うこともありました。ただ、今振り返ると、それも当然でした。メンバーからすると、私はまだ「様子を見る存在」だったからです。
そこで私は、相手に問いかけるのではなく、ちょっとした「相談」をもちかけるようにしてみました。
私「実は最近、自分はこういうことで悩んでいて……」
メンバー「そうなんですか」
もちろん、すぐに関係が変わるわけではありません。それでも、上下ではなくフラットな立場で話しかけることで、少しずつ空気が変わっていきました。
相手が「話してもいい」と感じ始めたとき、関係は静かに動き出します。「この人になら話しても大丈夫だ」と感じたとき、初めて本音が出てくるのです。
私の場合、最初はそこをつくれていませんでした。まずは、「話してもいい相手」になることが先だったのです。ここを間違えると、どれだけいい問いをしても機能しません。逆に、安心できる関係が築けると、会話は自然に深まっていきます。
重要なのは、うまく話すことではありません。まずは、自分がどんな人間なのかを理解してもらう――。その積み重ねが、信頼関係の土台になっていくのです。
信頼は「先に渡す」もの
さて、ここで自分の開示とメンバーの本音の関係を図にしてみます。
多くの人は、メンバーの本音を引き出してから関係を深めようとします。しかし実際の順番は、逆なのです。
まず自分が小さく開示する。すると、「この人は安心できる存在だ」と伝わり、相手も少しだけ返してくれます。そして、その小さな返報が積み重なって、信頼は少しずつ深まっていきます。
図表1は、この流れがぐるぐると回る様子を表したものです。出発点は、いつも自分の側にあります。
メンバーが心を開くのを待つのではなく、自分から半歩踏み出す――。その半歩が、メンバーの半歩を引き出すのです。逆に、自分が閉じたままメンバーにだけ開示を求めても、この循環は始まりません。信頼は「引き出す」より「先に渡す」ものと捉えると、スムーズに最初の一歩を踏み出せます。

