抗議する農民に振り下ろされた警棒

州都を3カ所に分ける構想は、開発を約束されて土地を手放した農民たちには、裏切りとしか映らなかった。声を上げた彼らに、警察は警棒を振り下ろした。

70歳のベンカタ・スシーラ氏が、テレビ取材班の前で黙ってサリーの裾を膝までたくし上げる。脚には、警棒で打たれてできた痣が残っている。

2020年1月27日、トゥッルール村。構想の発表から40日あまり、州都の建設予定地にある29の村では、農民が抗議の声を上げ続けていた。スシーラ氏は1月10日、村々の女性たちと寺院へ行進する途中で、警官たちに打たれたという。「私が政府の脅威に見えますか」。そう尋ねる彼女は、年下の女性たちに体を支えられなければ、立ち上がることもできない。

取り締まりは、村人の日々の暮らしにまで及ぶ。インドの独立系ニュースサイト、スクロール・インの取材に応じた農民たちによると、マンダダム村では頭上をドローンが飛んで監視し、道には有刺鉄線が張り巡らされた。自分の村を歩くだけで、身分証の提示を求められたという。

警察側は、農民が先に襲いかかり、警官数人がけがをしたと主張する。農民側は、これを否定している。高等裁判所はスシーラ氏らが打たれた1月10日から3日後、訴えを待たずに自発的な審理に入った。そして出された裁判所命令では、平和的に抗議する権利が侵害された疑いがあると指摘している。

「政府は私たちを見捨てた。残るのは神だけ」と脚を打たれたスシーラ氏は言った。農民たちの抗議は、最終的に1631日、4年半近くに及ぶことになる。

インドの国旗と掲げた人々の手
写真=iStock.com/Vardhan
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「ゴーストシティ」と呼ぶ声も

抗議者たちのテントが立ち並ぶその脇で、工事が止まった現場では、資材の腐食が進んだ。新州都の建設に期待し土地を手放した農民たちも、じわじわと追い詰められてゆく。

2021年4月。建設途中の高層ビルに人の気配はなく、棘のある低木が生い茂っている。州政府の職員は朝9時に出勤し、夕方5時には引き揚げる。閣僚が顔を出すことはめったにない。インドの英語ニュースサイトのフェデラルは、街を「ゴーストシティ」と評し、建設を止めた政権の大臣自身もそう呼んだと報じた。

幹部官僚用の官舎144戸は、9割がた完成したところで工事の中止が命じられた。判事用と閣僚用の邸宅73戸も、7〜8割が完成したところで工事が止まった。冒頭のラビンドラ氏が翌2022年に見張っていたのも、こうした判事用官舎だ。また、貧困層5200世帯向けの住宅は完成したものの、水道も電気も下水も通じていない。

トゥッルール村の元農民マッリ・キショール氏は2022年、ニュース・ミニットの取材に苦しい家計を打ち明けている。借金は約50万ルピー(約83万円)。利子だけで毎月1万ルピーが出ていく。ラビンドラ氏のひと月分の稼ぎに当たる額が、丸々利払いに消える。3人の娘の学費を払う余裕はない。

土地と引き換えにもらった区画は、開発が止まって地価が上がらず、売るに売れない。「娘たちの結婚と将来のために取っておく」とキショール氏は語った。