3万人の農民が土地を差し出した

新州都の中核となる行政地区のマスタープランを手がけたのは、ロンドンの建築設計事務所フォスター・アンド・パートナーズだ。米アップルの円形本社や、ベルリンのドイツ連邦議会議事堂のガラスドームを設計したことで知られる。

フォーブス・インディアによれば、新州都アマラーヴァティーでは、あらゆる屋根に太陽光パネルを載せ、水上タクシーを走らせる計画だった。フォスターが手がけた行政地区では、土地の6割を緑地や水辺にするという。計画面積は216平方キロで、大阪市に匹敵する広さだ。2029年の完成時には、横浜市の人口(約377万人)に迫る350万人が暮らすはずだった。

迎えた2015年10月22日、インドのナレンドラ・モディ首相は国内外の要人を招き、盛大な式典で礎石を据えた。

インドのナレンドラ・モディ首相は国内外の要人を招き、アマラーヴァティー首都プロジェクトの盛大な式典で礎石を据えた
インドのナレンドラ・モディ首相は国内外の要人を招き、アマラーヴァティー首都プロジェクトの盛大な式典で礎石を据えた(写真=Prime Minister's Office/GODL-India/Wikimedia Commons)

州都をアマラーヴァティーに置く案に、当初は州内のどの政党も賛成していた。土地は買い上げず、農民に提供を求める。応じたのは2万9881人。フォーブス・インディアによると、そのうち7割近くは、提供した土地が1エーカー(約0.4ヘクタール)に満たなかったという。小さな土地を寄せ集める形で、用地は確保された。

新政権が打ち出した「3州都構想」

提供した土地の見返りとして農民に約束されたのは、開発後に割り当てられる区画だ。灌漑かんがい地なら1エーカーにつき、住宅用と商業用を合わせて1450平方ヤード(約1200平方メートル)。提供した面積のおよそ3割にあたる。地価が上がれば、損はしない。畑を手放した農民には、年払いの補償金も支給された。州政府は気前の良い条件を示し、補償金の額を毎年1割ずつ増やすとした。

そして、2019年5月の大敗だ。州都計画を主導したN・チャンドラバブ・ナイドゥ州首相は、州議会選挙で政敵ジャガン・モハン・レッディ氏にあえなく敗れる。

レッディ氏は汚職がはびこっていたと主張し、計画を中止した。代わりに打ち出したのが、行政の中枢をヴィシャカパトナムへ、司法の拠点をクルヌールへ移す「3州都構想」だ。アマラーヴァティーに残すのは議会だけ。1カ所に集中させるやり方では立ち行かない、というのが新政権側の言い分だった。

世界銀行によると、インド中央政府は3州都構想の発表に先立つ2019年7月、同行への融資要請を取り下げていた。フォーブス・インディアによれば、世界銀行は3億ドル(約473億円)、アジアインフラ投資銀行も2億ドル(約315億円)の融資を予定していたが、いずれも撤退した。ニュース・ミニットによると、高裁の予定地は、2019年2月の定礎から3年が過ぎても、礎石を示す看板が立っているだけとなった。