輪があるかどうかが問題ではない

だから問うべきなのは、輪があるかどうかだけではない。その輪が、顧客に届く価値をどれだけ増やしているかである。出資先の能力が高まり、そのサービスによって利用企業が成果を得て、その成果から支払われる料金が増えていく。そうであれば、循環には持続する根拠が生まれる。

本書では、AI企業の歩みが2つに分かれ始めていると書いた。「巨額の外部資本を投入し続けて規模とシェアを追う企業」と、「顧客から生み出すキャッシュフローを計算資源や研究開発へ再投資し、自走する企業」である。その分かれ目を考えるうえで、法人顧客からの収入の伸びは重要な手掛かりになる。

本書の執筆時点で、企業向けの大規模言語モデル市場のシェアは、アンソロピックが40%、OpenAIが27%だった。アンソロピックは、年間100万ドル以上を支払う顧客を500社超に増やし、2027年の黒字化を見込んでいた。売上の年換算額は、5月の資金調達の時点で470億ドルに達している。ただし、売上の大きさだけでは、研究開発や計算資源への支払いを顧客からの収入で賄えているかまでは判断できない。もっとも、そのアンソロピックも、計算資源の供給者から出資を受け、輪の中にいる。どちらか一方を正解と呼ぶことはできない。どちらの道を進むにせよ、輪を回し続ける力の源は、最後には輪の外にある。

デジタルネットワークに包まれた地球のイメージ
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輪の外で、誰がその便利さにお金を払うのか

半導体の注文、クラウドの契約、AIサービスの利用は、それぞれ異なる段階の需要である。設備を買う需要が大きいことから、最終的な利用者が十分な料金を払い続けることまで、一足飛びに結論づけることはできない。AI需要を見るときには、3つの問いが役に立つ。

第1に、誰が払っているのか。投資家や供給者から入る資金と、実際の利用者から入る収入を分けて見る。第2に、何に対して払っているのか。試しに使ってみる期待ではなく、仕事の改善や顧客への価値に対価が生まれているかを見る。第3に、払い続けられるのか。利用企業が、導入の費用や、AIの出力を確かめる手間まで含めて、成果を得ているかを見る。たとえば、AIを入れた業務について、処理にかかる時間、誤りの件数、顧客の満足度が導入の前後でどう変わったかを、支払う利用料と並べて記録しておく。それだけで、AIへの支払いが「期待への投資」なのか「成果への対価」なのかが見えてくる。

この3つの問いは、遠いシリコンバレーの話ではない。あなたの会社がAIに支払う料金は、巨額投資の輪を支える収入の一部になる。その料金に見合う価値を、自社は何によって確かめているだろうか。そして、半導体製造装置や電子部品、電力などでAI需要を受ける側の企業にとっては、その注文の原資が輪の外から来ているのかを見極めることが、次の投資判断の前提になる。