※本稿は、庵野拓将『科学的に正しい筋トレ大全』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
運動前のストレッチの「落とし穴」
トレーニング前にストレッチをする――これは多くの人が当然のようにやっているウォームアップの定番です。けがを防ぎ、筋肉を目覚めさせる。そう思ってストレッチを取り入れている人も多いはずです。
しかし、実はこのストレッチには、ある“落とし穴”があることがわかってきました。それが、筋トレ前にストレッチをすると、パフォーマンスが下がってしまうという残念な事実です。
この点については、2004年にカナダのシュライアーらが初めて「静的ストレッチによって筋力やジャンプ力が低下する」ことを報告し、話題になりました。その後、同様の研究結果が続出。2006年には欧州スポーツ医学会が、2010年にはアメリカスポーツ医学会が、「運動前の静的ストレッチはパフォーマンスを低下させる」ことを推奨するまでに至ったのです。
これ以降、スポーツ科学の世界では「伸びきったゴムは強く弾かない」という理屈と同様に、静的ストレッチは筋肉のバネ(剛性)を低下させる悪者として扱われるようになりました。
しかし、その議論は2024年をもって、さらにアップデートされることになりました。
最新の研究が導き出した答えは、「やるか、やらないか」という極端な議論ではありません。すべてのカギは「秒数」にあったのです。
最新研究が突き止めた「60秒の境界線」
「ストレッチは本当にパフォーマンスを破壊するのか?」
この問いに完全な決着をつけるべく、2024年、オーストリア・グラーツ大学のワーネケら研究チームは、過去の膨大なデータから信頼性の高い83件(2012名分)を厳選し、メタアナリシスによる再検証を行いました。
彼らが発見したのは、ストレッチのデメリットが発生するかどうかは、「ある境界線」を超えた瞬間に劇的に変わるという事実でした。
その境界線こそが、1部位あたり60秒です。

