同じ言葉でも時代によって受け止められ方は変わる

この一件から筆者が連想したのは、ホンダの「負けるもんか」という広告だ。逆境に立ち向かう企業の姿勢を力強く表現した広告として知られるが、同じ言葉でも、その時々の業績や企業への評価、社会情勢によって受け止め方は変わる。過去に評価された表現をそのまま現在に持ち込んでも、同じ効果が得られるとは限らない。EVシフトの失敗で巨額な損失を出し、批判を浴びている現状において、同社が同じような広告を展開したとしたら、おそらく炎上して終わってしまったと思われる。

SNSでは、企業が意図した文脈だけで投稿が読まれるわけではない。一部の表現が意図しない形で切り取られ、別の不満や批判と結びついて広がることもある。だからこそ、発信前には企業の視点からだけでなく、価格上昇に直面する生活者の視点から文章を読み直す必要がある。

社会の空気とのずれが批判を招くのは、値上げの発表に限らない。農林水産省が食品ロス削減の意図で発信した刺身の「完食」投稿も、一部で反発を呼んだ。

「食品を無駄にしない」という趣旨自体に問題があるわけではない。それでも、食費の負担が重いと感じている人々には、行政の発信が違和感を伴って映る場合がある。

2025年のエイプリルフールには、ほっかほっか亭が「ライスの販売を停止します」と投稿して批判を受けた。冗談であることを前提とした企画だったとしても、米不足や米価高騰に悩む消費者にとっては笑いにくい話題だったのだろう。発信側に悪意がなく、内容そのものが直ちに不適切とはいえなくても、受け手の切実な問題に触れることで炎上することはある。

値上げ発表に「魔法の言い回し」はない

いずれの事例も「不適切な投稿」とまでは言い難い。ではなぜ批判を浴びたのだろうか? ポイントは、生活に直結する話題ほど、企業や行政の意図と受け手の感情が食い違いやすいということだ。食べ物やお金は、誰もが日常的に向き合うテーマである。軽妙な表現やユーモアが効果を発揮する場面もあるが、生活者の苦しさが強い時期には、その軽さが無神経さとして受け取られる可能性がある。

では、企業は批判を恐れて無難な発信だけをすべきなのかと言えば、そうではない。必要なのは、社会の反応を予測して表現を点検することと、批判が起きた際に説明を尽くすことだ。あらゆる人を満足させる言葉は存在しない。しかし、発信する側が自分たちの論理だけに閉じこもらず、受け手の事情を想像することはできる。

「値上げ」と書かれたニュースの見出し
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

批判を回避する値上げ発表の「魔法の言い回し」はない。普段から商品価値を磨き、消費者との信頼を築き、価格改定の必要性を正直に伝える。そして、その言葉が今の生活者にどう響くかを考えることが重要なのだ。

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