中国の軍事近代化の進展や習近平政権の動向を背景に「いつ起きてもおかしくない」と警戒されている「台湾有事」。軍事侵攻や海上封鎖などの武力行使が危惧されており、被害は日本にも及ぶ。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「銃声が聞こえる前に日本人の生活や企業活動に忍び寄る脅威がある」という――。
台湾に赤い丸印がつけられた地図
写真=iStock.com/Yevhenii Orlov
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銃声が聞こえる前に忍び寄る恐怖

台湾有事を考えるとき、まず思い浮かぶのは、習近平率いる中国によるミサイル攻撃や上陸作戦かもしれない。

しかし、今回考えたいのは、その前の段階だ。中国が台湾に対する武力行使に踏み切る事態を想定した場合、銃声が聞こえる前に、サイバー空間と情報戦が起こりうると予測されている。それは具体的にはどのようなものなのか。そして、日本の企業や人々は、どんな影響を受ける可能性があるのか。

手がかりになるのは、すでに公表されている攻撃や情報工作の事例だ。米政府機関は、中国の支援を受けた攻撃集団による重要インフラへの侵入を報告している。日本の警察庁も、中国の関与が疑われる集団による情報窃取を公表した。台湾の選挙では、ニセの音声を使った情報工作が報告されている。

ただし、これらがすべて台湾への武力行使の「準備」だと確認されたわけではない。サイバー攻撃があったからといって、軍事衝突が迫っていると判断することもできない。ただ発表された事例から確認された「事実」と、そこから考えられるリスクを認識する必要はある。5つの重要ポイントを以下に整理した。

1.電力や物流を止め、社会の動きを鈍らせる

最も生活への影響が大きいのは、電力、通信、交通、港湾など、社会を支える重要インフラへの攻撃だ。

米政府機関などは2024年2月7日、中国の支援を受けた攻撃集団「ボルト・タイフーン」が、米国の通信、エネルギー、交通、水道などの分野に侵入していたと公表した。情報を盗むだけではなく、重大な危機や紛争が起きた際に各種機能を妨害するため、あらかじめ入り込んでいる「寄生型」と評価している。

重要なのは、侵入した直後にシステムを止めるとは限らないことだ。この報告では、攻撃者が目立たないように活動し、後から妨害できる状態を確保しようとしていたとされる。平時に表面化しない侵入が、危機の際の弱点になる可能性がある。