日本ではいまだに「値上げは悪」との意識が強い

なぜ日本では、価格を上げることに「申し訳なさ」が伴うのだろうか。長く続いたデフレの下で、企業は値下げや価格据え置きを競い、消費者もそれを当然のように受け止めてきた。日本企業が「良いものを安く提供する」ことで、戦後からバブル経済に至る経済成長を実現してきた。そうした経緯から、値上げを避けること自体が美徳となりやすかったし、現在でも日本人の中にはそうした意識が根付いている。

一方、マーケティングの観点では、価格は顧客が感じる価値と需要、競争環境、コストなどを踏まえて決めるものだ。適正な対価を得て、商品やサービスの品質向上に投資することは企業の健全な活動でもある。海外でも値上げへの反発は当然あるが、日本では特に「値上げすることそのものが悪い」という受け止め方が根強かったように思える。

もっとも、今後の日本企業がすべきことは、値上げへの謝罪を巧妙な広告手法として利用することではない。値上げを必要な経営判断として説明し、その代わりにどのような価値を提供するのかを示すことだ。謝罪だけが注目され、肝心の商品価値が伝わらなければ本末転倒である。

シャウエッセンの「正直」発信はなぜ裏目に出たか

サイゼリヤと対照的なのが、シャウエッセンの値上げをめぐるSNS投稿だ。

1袋あたりの本数を6本から5本に減らす「実質値上げ」を伝える際に、「時代に負けてたまるか。」といった表現を打ち出したところ、瞬く間に炎上した。「正直に伝えます」という姿勢を打ち出しても、受け手によっては企業側の都合を強調する言葉に聞こえてしまう。発信する側が「率直で前向きな説明」と考えた表現が、生活費の上昇に苦しむ消費者には違う意味で届くのである。

ここで注意したいのは、正直に説明すること自体が間違っていたわけではないという点だ。問題は、何を言ったかだけでなく、誰が、どのタイミングで、どのような語り口で言ったかにある。値上げによる負担を引き受けるのは消費者である。その立場への想像力が不足すると、企業の決意表明や苦労話が、かえって反発を招くことがある。