教育現場で生成AIの利用が進んでいる。AIは学習者全体の底上げを実現するインフラになりうる、とこの動きに注目する一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「勉強の主役はあくまで人間であり、AIは補助役にすぎない。この関係を忘れないことが、AI時代の勉強法の核心だ」という――。(第3回/全5回)

※本稿は、野口悠紀雄『AIは最強の味方で、最悪の敵』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

人間教師を支援するAI

AIを学習チューターとして活用する研究は、2024年以降、実験段階を越え、実装を前提とした設計思想が確立しつつある。その代表例が、スタンフォード大学の教育大学院とHAI(Human-Centered Artificial Intelligence)が開発した「チューター・コパイロット(TutorCoPilot)」だ(*)。

*MIT Technology Review Japan, This AI system makes human tutors better at teaching children math

このツールは、GPT-4世代の大規模言語モデルを基盤としている。中心的目的は、生徒を直接指導するのではなく、人間のチューターに対して「つぎにどのような問いを投げ、どの程度のレベルで説明すべきか」をリアルタイムで助言することだ。つまり、これは「教師の代替」ではなく、「人間の教師を支援するAI」だ。

2024年に実施された約900人のオンライン・チューターを対象とする実証研究では、とくに指導評価が低かったチューターのもとで学んだ生徒の学習成果が、有意に改善したことが確認された。重要なのは、AIが優秀な教師の代わりになったのではなく、教育の質を改善する装置として機能した点である。

この結果は、生成AIが教育現場において「例外的な才能を増幅するための道具」ではなく、「全体の底上げを実現するためのインフラ」になりうることを示している。

黒板に書かれた数式を手で消す様子
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです

対話しながら学ぶ楽しさを実感

以上のように、AIチューターは、学習補助や個別最適化の段階をすでに越え、学習プロセスの中核に入りつつある。そして、学校教育だけでなく、資格試験、社会人学習、リスキリングの分野でも、応用が急速に広がっている。

重要なのは、「AIが教えること」それ自体ではない。学習者が、自分の理解を言語化し、分からなければ問い返し、考え直す機会を持てる点が重要だ。ここにAI学習法の本質がある。

生成AIは、これまでの「孤独で苦痛に満ちた受験勉強」を終わらせ、「対話しながら学び、勉強の楽しさを実感できる」環境を現実のものにしつつある。こうした変化は、学習プロセスの本質を変えていくことになるだろう。

▼書籍のインスタ始めました
@president_publishing
セブン-イレブン限定書籍や書店向け書籍などの自社出版物、書店やイベント等の最新情報を随時更新しています。