沖縄を発つ際、夫との思い出の品を含め、持ち物の多くを処分した。新居では押し入れも、和室も、仕切られた台所もなくした。
「思い出の品を見ると、また思い出してしまう。これからは荷物を少なくして暮らしたいんです。私は一人だから、個別の空間をつくる意味がない。物に押しつぶされるより、余白のある感じがいい」
新しい部屋には、まだほとんど何もない。台所のカウンターで一人分の食事を取り、物を増やさず、掃除しやすく暮らす。それでも、近くには息子がいる。
「息子も、私が一人で全部片づけをして大変だったことを知っているから、寄り添っていろいろと要望を聞いてくれました。本当に一時、ずたぼろだったので……ここに来て落ち着ける場所ができて良かったです」
NHKドラマ「団地のふたり」が好きで、作中のような近所付き合いも望んでいる。
「団地ならではの『人の温かさ』みたいなものがありますよね。あんな感じで、ご近所さんとの関わりもできればいいなと思います」
海の見える8階から、緑の多い団地の2階へ。思い出の品を残さずに移ってきた女性の部屋では、無垢材の床がこれから少しずつ色を重ねていく。
「ここが私の終の棲家です。まずはここでの暮らしを楽しんで、友達も近くにいるので、元気に歩き回りたいと思います」
1軒目に紹介したたまプラーザ団地の部屋のリノベーションを手がけた朝日リビング株式会社「DanReno(ダンリノ)」の担当者は、築半世紀ほどの団地には「古さゆえのメリット」があると言う。
「築50年前後の団地は、日当たりと風通しを重視して全棟が南向きに建てられ、棟と棟との間隔も十分取られていることが多いんです。古いからこその大きなメリットと言えます」
補助金の活用にも、専門業者の知識が生きる。
「この団地は旧耐震基準で建てられているんですが、国と横浜市の補助金を活用し、窓や断熱材の改修費に充てました。旧耐震であっても、『耐震基準適合証明書』を取得すれば、住宅ローンの控除や各種税金の軽減、補助金の対象になったりする場合があります。行政の補助条件はだんだんと厳しくなっているため、こうした煩雑な申請手続きのアドバイスも私たちの重要な役割です」
古い団地には注意点もある。
2軒目に紹介した森山さん宅のリノベーションを手がけた「リノベる株式会社」の担当者によると、配管の劣化やカビは、壁を開けて初めて分かる場合があり、交換に思わぬ費用がかかることもある。エレベーターの有無は重要で、断熱、電気容量も、暮らし始めてからは変えにくい。物件価格の安さだけでは選べない住まいだ。
窓の外の緑を選んだ家族。新築より、広さと北欧の光を求めた夫婦。持ち物を手放し、息子の近くで暮らし直す女性。選んだ理由も、つくった部屋も違う。
築50年前後の団地を選ぶことは、昔の暮らしに戻ることではない。窓の外の緑、北欧の夜、これから色づく無垢材の床。3世帯は古い部屋を、それぞれの新しい暮らしにつくり替えていた。
(AERA編集部・上田耕司)
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