一方、すべてを変えられるわけではない。構造上壊せない梁の下は天井高が175センチ。電気容量も30アンペアまでで、食器洗い機と電子レンジを同時に使うとブレーカーが落ちることもある。

それでも、この団地で子どもを育てる満足感は大きい。雪が降れば近所の大学生が長男と雪だるまを作り、おもちゃのお下がりも届く。子ども同士は公園で友達になり、敷地内で虫やキノコ探し、おにごっこ、サッカーや野球の練習を楽しむ。団地には、50年以上続くボランティアに支えられた図書室や、子ども用プールもある。

夫は管理組合の役員を務める。休日に書類へ判を押し、秋の終わりには落ち葉集めにも参加する。手間はかかるが、顔見知りは増えていく。

「子どもがいて、周りの人とコミュニケーションを取ったほうがいいという気持ちなら、結果的にすごくメリットになりますね」

妻は価格面の利点も挙げた。

「たまプラーザ周辺で中古マンションを買おうとすると5000万〜6000万円ぐらいはして、さらに自分好みにするのは予算的に難しい。でも団地なら、物件価格を抑え、その分をリノベーションにかけて、自分たちの住みやすい空間をつくることができます」

欲しかったのは「広いリビング」

東京都板橋区にある築約半世紀の団地。外資系スポーツアパレル会社に勤める森山裕之さん(43)は、IT企業で働く30代の妻、生まれたばかりの子どもと暮らすため、82平方メートルの部屋を購入した。

結婚式を終えて「次は家」と探し始めたものの、新築か中古か、マンションか戸建てかも決まらない。住宅情報サイトで物件を調べ、週末に見学しても、良しあしを判断できなかった。

「途方に暮れていたというか、けっこう家探し迷子感がありましたね(笑)」(森山さん)

当時住んでいた賃貸住宅(中野区)の斜め向かいに建つ新築マンションも見に行った。

「60平方メートルくらいで1億円弱でした。新しいという価値観を取るのに、60平方メートルの部屋に1億円は出せないよね、という結論に至りました」(同)

SNSの広告で、中古物件を買ってリノベーションする方法を知った。複数の会社と打ち合わせを重ねるうち、自分たちが本当に欲しいのは新しい建物ではなく、広いリビングだと分かったという。

最初に検討した西調布(調布市)では、駅に近づくほど価格が上がり、価格を下げれば駅から遠くなった。一度は購入をあきらめかけたが、別の候補として、82平方メートル、11階、南向きの団地の角部屋が現れた。「これ以上ない」と購入を決めた。