高市政権の「パワー・アジア」
2026年4月、高市早苗首相は「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「パワー・アジア」を打ち出した。
パワー・アジアは、緊急時の石油製品調達やサプライチェーン維持のための融資だけではない。備蓄・放出制度、備蓄タンク、重要鉱物、バイオ燃料、省エネルギー、産業高度化まで対象とする。
金融協力は総額約100億ドル。原油・石油製品の調達額に換算すれば最大約12億バレル、ASEANの約1年分の原油輸入量に相当する規模である。
つまり、供給途絶が起きた時に資金を出すだけの制度ではなく、備蓄制度を整え、資源調達先を多様化し、省エネルギーを進め、域内の産業そのものを高度化することで、アジアの供給網を長期的に強くする一大構想である。
高市首相はその後の外交政策スピーチでも、パワー・アジアによるサプライチェーン強靱化、日・ASEAN・AI共創イニシアティブ、海底ケーブルやオープンRANなどのデジタル回廊、CPTPP、安全保障協力を「進化した自由で開かれたインド太平洋」の構成要素として位置付けている。
中国のレアアース支配への対抗措置
ここに重要な意味がある。パックス・シリカがAI時代の技術、投資、ルールという「上部構造」をつくるなら、パワー・アジアは資源、エネルギー、備蓄、物流、金融という「下部構造」をつくる。
この二つを接続できれば、中国がレアアース規制を発動するたびに、その場で譲歩するのではなく、中国依存そのものを長期的に減らす経済圏を構築できる。
これは決して机上の空論ではない。
2025年10月、トランプ大統領と高市首相は、重要鉱物・レアアースの採掘・加工に関する日米枠組みに署名しており、日米による融資、保証、保険、長期購入契約、備蓄、リサイクル、地質調査などを組み合わせ、供給網を多様化する方針が示された。供給途絶に対応する「日米重要鉱物供給安全保障迅速対応グループ」も設けられている。
重要なのは、対象が鉱山だけではなく、永久磁石、電池、触媒、光学材料などの派生製品まで含まれていることだ。中国の支配力は、鉱石を掘る能力より、分離、精製、加工という川中・川下工程に集中している。その意味で、この設計は合理的だ。

