※本稿は、東出昌大『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
天然のクレソンの感動的な美味しさ
移住初期の頃、この土地の方々の温かさが身に沁みた。一番は、食べ物である。「若いんだから食えるだろ」と、ハニカミながら大量のお野菜や山菜、キノコを色んな方が持って来て下さった。
東京で「クレソンのサラダをムシャムシャ食べたい」と思っても、スーパーでは1袋259円でちょっとしか入っていない。思う存分食べようと思うと、1人前で1500円分くらい買わねばならず、店で食べるならサラダだけで数千円もする。
しかし、こっちでは摘みたてシャキシャキの香り高いクレソンを「今そこで採ってきた」とデカいスーパーの袋いっぱいに下さる。綺麗な沢の水で育った天然のクレソンは、レモンと塩とオリーブオイルをかけただけのサラダが最高に美味い。
茎の一本、葉の一葉にそれぞれの柔らかさと舌触りがあり、噛み締めると緑の甘味と鼻にツンとくる仄かな香味が春の陽射しのようにフレッシュで、一ロひとくちに喜びが全身をほとばしる。
自給自足はタダじゃない
心底「田舎サイコー」と思っていた。そして「自分もそんな風に収穫、採取出来る生活を目指そう」と。
それからは、長年この土地に住むジイちゃんバアちゃんに積極的にお話を聞き「あそこの山にはこんなキノコが」と言われれば近くまで車で行って歩き回り、「豆は肥料をあげ過ぎるな」と言われたら苗を植えてはおっかなびっくり毎日観察した。
次第に、大量ではないが、少しずつ自分で採ったものが食卓に列ぶようになり、旬の味わいを楽しむ贅沢に舌鼓を打った。しかし、3年経って確信を得た。「どれもタダじゃない」のである。
「そんなん言われなくとも」と思うかも知れないが、この認識を履き違えてしまうと「田舎移住失敗問題」まで派生するのではないかと、私は仮定している。

