「散歩」と称して集まった住民たち
試験運行から5年後の冬、その路線を延伸する計画が動き出す。だが、歓迎の声ばかりではない。
2008年1月、上海。階段を下りてきた実業家に、青い手袋をはめた中年の女性がそっと近づき、「今週末、散歩するのを知ってる?」と声をかける。この「散歩」は、無許可の抗議を指す住民たちの隠語だ。
延伸区間は住宅地を貫く。それなのに、事前の説明も公聴会もなかった。かといって、当局がデモを許可することもない。だから住民は、デモの代わりに連れ立って街を歩く「散歩」を選んだ。
ワシントン・ポストによると、同年1月12日には人民広場に数千人が集まり、いよいよデモらしい集会に発展。人々は「家を守れ」と声を上げた。
当局には、強く出られない事情があった。抗議を率いていたのは、豊かになるにつれて個人の権利に目覚めた住宅所有者や専門職の人々だった。農村地域のデモの制圧に慣れた警察さえ、財産や学歴のある都市住民を脅すのは容易ではないと、同紙は指摘する。
運賃収入は借金の利息にも届かなかった
住民は、公金の使い道を問題視した。すでに走っている区間でさえ、座席は埋まらない。住民側の主張によれば、開業したばかりのころの乗車率は20%に届かず、運賃を下げても27%で頭打ちになったという。
リニアの利用者の中には、延伸に懐疑的な声もあった。延伸が実現すれば、虹橋と浦東の二つの国際空港がリニアで結ばれる。だが、海外便に乗務するたびにリニアに乗るというパイロットのチェン・ミン氏は、両空港を結ぶのなら「普通の鉄道の方がいいです。安くて、便利さはほぼ同じですから」とワシントン・ポストに語り、「中国に本当にこれ以上のリニアが必要なのでしょうか」と疑問を投げかけた。
市はすでに延伸計画を短縮し、一部の区間を地下に潜らせる案を示していた。それでも住民は、譲歩が「小さい」と突き返した。トランスラピッド推進派が描いた上海―杭州間200キロの延伸構想は、これに先立つ2007年5月にいったん撤回されている。中国英字経済メディアの財新グローバルによると、この構想は最終的に2010年に立ち消えとなった。
そして、借金が残った。
2020年時点で、この路線の輸送人員は1日あたり約1万人。運賃を50元(約1200円)として計算すると、年間収入は約2770万ドル(約42億7000万円)だと財新グローバルは試算する。
建設に投じた14億ドル(約2200億円)の半分は中国銀行からの借り入れだ。上海市にある同済大学の論文によると、利払いだけで年に約4000万ドル(約62億円)に上るという。稼ぎは利息にすら届かない。

