細胞の機能を調整するマイクロRNA

土壌微生物と植物、それを食べる人は、じつは、生物界を超えたコミュニケーションをしています。土壌微生物は植物を生かし、植物は土壌微生物を生かし、それを食べる人を生かし、と、互いを生かし合っています。

近年の研究で、動植物は、「マイクロRNA」を介して、常に生物界を超えた情報交換をしていることが明らかになっています。クロス‐キングダム‐レギュレーション(界を超えた制御)といわれ、バイオインフォマティクス(情報生命科学)の分野で非常に注目されています。

特に、マイクロRNAはとても注目されており、その機能性を発見した、マサチューセッツ大学のビクター・アンブロス教授と、ハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授は、その功績によって、2024年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

私たちの遺伝子(DNA)に刻まれた遺伝情報は、メッセンジャーRNAに情報転写され、タンパク質に翻訳され、そのタンパク質が、生体内のさまざまな働きを担っています。

マイクロRNAは、マイクロと名前がつくだけあって、とても短い構造をしており、遺伝子の設計図からタンパク質を直接つくる働きがないので、特に役に立たないガラクタだと考えられていました。

しかし、ノーベル賞を受賞した2人の教授は、マイクロRNAはガラクタなどではなく、メッセンジャーRNAに作用して、タンパク質の発現を調整することで、生体の機能に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

私たちは、日常的に植物や動物を食べることで、それらの食物からマイクロRNAを情報として受け取り、細胞の機能を調整しているのです。加熱後でも完全には消失せず、一定量が残存することがわかっています。

さらに、植物は、共生する土壌微生物との共生関係の中で、マイクロRNAを受け取っています。

植物の根と共生する菌根菌が、マイクロRNAを介して、植物の栄養素や水分の吸収の改善、環境ストレスへの耐性の向上をサポートし、その植物に含まれるマイクロRNAは、人を含む哺乳類に食べられて取り込まれることで、細胞の中の遺伝子に作用して、抗ウイルス、抗腫瘍、抗炎症、抗アポトーシス、免疫調節、および腸機能調節効果など、さまざまな機能性を発揮する可能性が示唆されています(※7)。

生態系を構成するさまざまな動植物は、常にマイクロRNAを交換しながら共生関係を築いています。人も、動植物を食べることで、この恩恵に与っていたのです。

植物を食べることが持つ本当の力

たとえば、漢方薬に使われてきた甘草のマイクロRNAの免疫調節活性が、T細胞分化、炎症、細胞死に関与する遺伝子の調節に関連していること(※8)。

桐村里紗『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』(光文社新書)
桐村里紗『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』(光文社新書)

同様に、解毒や解熱、化膿症などに使われる生薬・スイカズラのマイクロRNA(miR2911)には、抗ウイルス活性があり、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの複製の阻害の働きがあることが示されています。7日間の投与で、男女ともにウイルス陰性化までの期間の短縮が認められたと報告されています(※9)(※10)。

また、ブロッコリーや高麗人参に含まれるマイクロRNA(miR159)の血清レベルと、乳がんの発症率や進行は逆相関しており、25mg/kgの濃度の「miR159」を16日間、経口摂取すると、腫瘍異種移植モデルにおける腫瘍の成長が、劇的に減少することが明らかになりました(※11)。

古来、「医食同源」「薬食同源」といわれてきたものの、近代の医学で、薬以外にはその薬効を認められないとして、食品からの抽出成分が医薬品として単離されて、医療に応用されてきました。

マイクロRNAを使った、生物界を超えた情報交換の研究が進むことで、植物を食べることが持つ本当の力が解明されると期待しています。

実際に、土壌微生物の豊かな土にこだわってつくられた作物は、それ自身が病気にも強く、腐りにくく、元気である上に、人にとっても、まったく味が違っています。

子どもに食べさせると明らかです。「うちの子、野菜嫌いなんです」といわれる子に、微生物が豊かな土で育った野菜を勧めると、嘘のようにパクパク食べることはよくあります。

抗酸化力を測ると高い値が出ますが、今後はマイクロRNAについても、多様な働きが明らかになってくるのではと考えています。

※7 A Timely Review of Cross-Kingdom Regulation of Plant-Derived MicroRNAs. Frontiers in Genetics. 12, 2021
https://doi.org/10.3389/fgene.2021.613197
※8 Shao HW, et.al. Extraction of miRNA from Glycyrrhiza uralensis Decoction and Its Effect on Immune Cells. Journal of Chinese Medicinal Materials. 2015;38(7):1449-1453.
※9 Zhou Z, et al. Honeysuckle-encoded atypical microRNA2911 directly targets influenza A viruses. Cell Research. 2015;25(1):39-49.
※10 Zhou LK, et al. Absorbed plant MIR2911 in honeysuckle decoction inhibits SARS-CoV-2 replication and accelerates the negative conversion of infected patients. Cell Discovery.2020;6(1):54.
※11 Chin AR, et al. Cross-kingdom inhibition of breast cancer growth by plant miR159. Cell Research. 2016;26(2):217-228.

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