土壌微生物のスター選手たち

1グラムの土壌には100億~1000億個、6000~5万種の細菌が暮らしており、なかには、200メートルにも及ぶ糸を持つ糸状菌も存在し、植物の根っことともに、土中の情報ネットワークを形成しています(※1)(※2)。

多様な土壌微生物たちが、ネットワークを形成して、チームを組んで働いているのです。そのなかでもスター選手は、古来より私たちの身近な発酵食品として、暮らしのなかで活躍しています。紹介しましょう。

◇漬物の発酵のもと:ラクトバチルス・プランタルム

ラクトバチルス・プランタルム菌は、植物に付着する代表的な土壌の乳酸菌の仲間です。耐塩性といって、塩にも強い。

その特徴から、伝統的な漬物や韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトなどの発酵のもとにもなっています。ドイツの伝統漬物、ザワークラウトは、キャベツを切って塩もみするだけで、あの酸っぱい漬物になります。それは、土壌の乳酸菌が乳酸発酵するからです。

自家製ザウアークラウト
写真=iStock.com/iuliia_n
※写真はイメージです
◇100%生きて腸まで届く:バチルス・コアグランス

バチルス・コアグランス菌(有胞子性乳酸菌)も、同じく土壌の有用菌の一種です。芽胞という最強のシールドに包まれているので、熱にも酸にも強く、加熱調理でも死なず、生きて腸まで届いて、腸内で働くことが特徴です。

米や野菜など、畑でとれる農作物に付着しています。

◇納豆菌の仲間:バチルス・サブリティス

納豆菌の仲間で、ナットウキナーゼも産生します。血圧調整、コレステロール調整、免疫機能の調整、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)の改善などの作用があることが報告されています(※3)(※4)(※5)。

腸内細菌も土壌菌を祖先

◇日本麹カビ:アスペルギルス・オリゼー

日本で古来より、醤油や味噌、日本酒、焼酎、その他の醸造酒などをつくるために利用されています(※6)。

日本が誇る「国菌」です。もともとは、カビ毒をつくるアスペルギルス種のカビが、突然変異により無毒化したものを、私たちのご先祖が選別し、大切に育て、日本麹カビとして、発酵食品の生成に受け継いできたと考えられています。

麹菌由来の発酵食品を食べることで、日本人の腸内には、特有の長寿菌・ブラウティア・コッコイデスが増えることがわかっています。米麹が多い米味噌、濁り酒、甘酒、塩麹などに多く含まれています。

◇ストレス耐性を高め、免疫バランスを調整:マイコバクテリウム・バッカエ

免疫のバランスを調整し、抗炎症作用を発揮し、ストレス耐性を高める作用が注目され、将来的には抗ストレスワクチンへの応用も期待されています。

マウスに注射することで、炎症を引き起こす複数の経路を阻害し、炎症を抑え、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのストレス関連疾患を予防することが明らかになっています。

これらの菌はあくまでも、多様な土壌微生物群のごく一部にすぎません。

多様な微生物群がネットワークしながら相互作用する微生物群全体の働きが、植物システム、腸内細菌システム、人と腸内細菌が全体で形成する超生命体に作用していることが重要です。

土壌微生物が口に入ったからといって、腸内細菌として定着するわけではありませんが、腸内細菌も、そのルーツを遡れば、土壌菌を祖先としています。土壌微生物は、腸内細菌と相互作用を発揮することで、人の健康にも寄与しています。

※1 M.G.A. van der Heijden, R.D. Bardgett, N.M. van Straalen. The unseen majority: soil microbes as drivers of plant diversity and productivity in terrestrial ecosystems. Ecology Letters, (2008)11(3):296-310.
※2 豊田剛己「土壌病原性微生物と土壌非病原性微生物の土壌中での生育場所について」『農薬時代』NO198、2017年
https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2023/03/Noyakujidai198_no8.pdf
※3 New Biotechnology. 27 (4), 341-346
※4 FEMS Immunology & Medical Microbiology. 53 (2), 195-203.
※5 Chinese Journal of Digestion. 33 (13), 857-861
※6 Psychopharmacology. 236(5), 1653-1670, 2019