子供に自然体験が不足すると、どんな影響が出るか。医師の桐村里紗さんは「日本だけでなく世界的にも、子どもたちは自然から遠ざかっている。その結果、子どものころから『フレイル』といえるような状態が増えている」という――。

※本稿は、桐村里紗『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

デジタルタブレットを持つ少年
写真=iStock.com/somethingway
※写真はイメージです

緑地が少ない環境と精神疾患のリスク

自然欠乏症候群は、アメリカのジャーナリスト、リチャード・ルーブ氏が、『あなたの子どもには自然が足りない』という著書で提唱した「自然欠乏障害」という考え方から派生した概念です。自然体験の不足が、子どもの心身の発達、大人の精神に悪影響を及ぼすことを指します。

特に医学的な診断名ではありませんが、日本では、ホリスティック医療の第一人者である山本竜隆やまもとたつたか先生が、著書で紹介されて認知度が高まりました。

現在、世界の50%以上の人々が都市部に住んでいます。2050年までにこの割合は70%になると予測されています。都市化は精神疾患の増加と関連していることが指摘されています。

自然は情動の安定化に影響します。自然が乏しい環境で育つと、感情の調整を担う前頭前野や扁桃体の働きがアンバランスになり、イライラや不安の高まりに直結することが報告されています。

都市で育った人は、農村で育った人と比較して、ストレスに対して扁桃体がより過敏に反応すること、また、現在都市に住んでいることは、ストレス処理を担う帯状回前部(前頭前野の一部)の活動に影響を与えることなどが指摘されています(※1)。

また、デンマークの約94万人を対象にした調査で、幼少期に緑地が少ない環境で育った子どもは、成人後に統合失調症・うつ・不安障害など、精神疾患を発症するリスクが有意に高いことが報告されています。

一方で、緑地へのアクセスは、これら精神疾患のリスクを低下させ、子どもの認知発達を改善することが示唆されています(※2)。

アメリカで行なわれた研究では、ADHD(注意欠如・多動性障害)の子どもが、自然の中で遊ぶと、症状が改善することが示されました(※3)。

大人であっても、自然環境で90分散歩した群は、市街地で散歩した群と比較して、過去の出来事やネガティブな感情をぐるぐる繰り返し考え続ける反芻はんすう思考が減り、ネガティブな影響を与える前帯状皮質の活動が低下し、扁桃体とのバランスが改善し、抑うつ的傾向を和らげるという報告があります(※4)。

必ずしも、大自然の中に行かなければならないわけではありません。都市につくられた緑地も、十分に心のオアシスになりうるのです。

※1 Lederbogen, F., et al. (2011). City living and urban upbringing affect neural social stress processing in humans. Nature, 474, 498-501
※2 PNAS, February 25, 2019, 116 (11) 5188-5193
※3 Journal of Attention Disorders, Volume 12, Issue 5, 2009
※4 PNAS, June 29, 2015, 112 (28) 8567-8572.