あの家庭だから今の自分がいる
「例えば、兄が僕に『売れないマンガ家のくせに』みたいに嫌味を言ってきて、以前ならムカッとしてたんですが、取材となると『いい台詞いただきました!』となるんですよね。すぐ担当編集に電話で報告していたくらい。以前なら攻撃だと思っていた嫌味も『意外とこっちのこと知ってくれてるじゃん』とわかりました。『アンチが最大のファン』とよく言いますが、あれの家族版のような感じですね」
取材という目線で見れば、過去の出来事の捉え方も変わってきた。
「母が食べるのが遅い兄に『自衛隊だったら役に立たんよ』と、いらん一言を言って、兄がキレてテーブルひっくり返したことがあって。でも、今客観的に考えればめっちゃ面白い。『なんで自衛隊?』なんだよって(笑)。いいワードチョイスだなと思います」
そういう感性が身についたのも、この家のおかげだと宮川さんは言う。ある時、本作を読んだ高校の友人が「実は弟がひきこもりで、実家に帰りにくい」とメールをくれたという。やり取りするうち「こういう家で育ったから、今の感性がある。この感性は嫌いじゃないから、家のことも嫌いになれないよね」と語り合った。
「本来自分に芽生えなかったであろう感覚や感性、感受性が育ったのは、確実にこの家のおかげで、それは今の仕事にも役立っているんです。真ん中の兄は、うちを『地獄だった』と言っていましたが、ただの地獄でもなかったな、と」
決して「親の責任」ではない
「結局、親の責任じゃないか」。そんな感想も寄せられることがある。ただ宮川さんは「親に対する恨みはない」と断言する。
「『母が余計な一言を言うから兄がキレる』という感想もらいました。そうだろうなとも思う反面、家族って単純なものじゃないと僕は考えます。子どもはお客さんじゃないから、ケンカすりゃいいじゃん、と思います。両親が兄のために一生懸命努力していた姿を見ているので親の責任だとは決して思いません。むしろ、なんとも人間らしい家族だったなと思います」
取材という形で引きこもりの兄と向き合った宮川さん。後編では、この行動によって、数十年間変わることがなかった「長男さん」と宮川さん、そしてその家族との関係性の劇的な変化を聞く。
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