吹雪のなかクマの足跡を追い10日…

やがて、2日に1度くらいの割合で吹雪が襲い、足跡をかき消してしまうようになった。わずかに窪みが残っていればまだいいが、なんの手がかりもない場合は、勘を働かせてまた一から探し直す。

苦行ではあるが、必ず終わりは来るはずだ。「ヒグマが寝ないわけがない」と自分に言い聞かせて粘る。寒さは日に日に厳しくなり、もういつ冬眠穴に入ってもおかしくない。兎にも角にも、目の前の足跡を絶対に見失ってはならない。体力の限界を迎えている青井を、執念だけが支えていた。

追跡を始めて10日ほどが経つと、クマの歩き方に変化が現れた。

「移動する距離が短くなり、1キロメートル四方くらいの範囲をグルグル回るようになってきたんです。冬眠穴が、すぐそばにあるはずだと確信しました。それまでの疲れが吹っ飛び、ますます追跡に熱が入りました」

後ろから追いかけているつもりなのに、自分たちの足跡の上をヒグマが踏んでいることもあった。

いつヒグマとパッタリ遭遇してもおかしくない非常に危険な状態だ。いやが応でも緊張感が高まる。

そして、運命の12月2日を迎えた。

予期せぬ遭遇

青井はその日、大学2年生だった後輩の山本牧と山に入った。天塩演習林内の施設に住み込んで毎日ヒグマを追う青井をサポートするため、クマ研メンバーが札幌から順番に応援に来ていたのだ。

前夜に荒れ狂った吹雪のおかげで、足跡は埋もれて見つからない。しかしヒグマがいるであろうエリアは見当がついている。青井は山本と手分けをし、隣り合った稜線を登りながらそれぞれでヒグマを探すことにした。かなりの時間歩いてみたが痕跡はなく、諦めて引き返してきたとき。

たった2分前につけた自分の足跡を、ヒグマが踏んでいるのを見つけた。「しまった、近づきすぎた……」。冷や汗が出た。まずは一旦、山本と合流したほうがいい。青井は山本がいるはずの方向に向かった。

雪の中のクマ
写真=iStock.com/zlikovec
※写真はイメージです

そのとき、山本は山本で真新しいヒグマの足跡を見つけていた。そして2人が合流した途端、遂にヒグマと出くわしてしまった。足跡から想像していた通りの、小さなヒグマだった。

しかし小ぶりとはいえ、人間の命を奪う力は十分にある。当時、クマに唐辛子成分を吹き付けて撃退するスプレーは、まだ存在しなかった。ハンターではないので銃を持つこともできない。

棒の先端を削って鋭く尖らせた長い杖と、腰にぶら下げたナタだけが頼りだ。青井はとっさにナタの柄を握りしめたが、鞘から抜く前にヒグマは走って姿を消した。