何十年分の変化が可視化されたに過ぎない
今回の直接原因は、巨大な氷河・岩石崩落である。特定の斜面崩壊に気候変動がどの程度寄与したかについては、今後の詳細な検証が必要であり、単一の災害を直ちに気候変動だけで説明してはならない。
しかし、ヒマラヤ全域で進む気温上昇、氷河後退、融解水の増加、永久凍土の劣化が、氷河・岩盤斜面を不安定化させる背景条件になっていることは、科学者が強く警告している。
毎年の気温上昇は小さな数字に見える。しかし、その熱は大気、海洋、氷河、永久凍土、岩盤に蓄積される。
融解水が岩盤の亀裂に入り込み、凍結と融解を繰り返す。永久凍土が緩み、岩石をつなぎ止めていた力が失われる。氷河が後退し、斜面を支えていた力も弱くなる。
外見上は同じ山に見えても、内部では支持力が失われていく。
そして、ある臨界点を超えた瞬間、それまでの連続的な変化が、不連続な崩壊へ転じる。
コップから水をあふれさせるのは最後の一滴だが、原因は最後の一滴だけではない。それまで注がれてきたすべての水が、あふれる条件をつくっている。
今回の災害も、発生したその日に突然始まったのではない。その日は、長年蓄積してきた変化が臨界点を超え、一気に可視化された日なのである。
地球の安全地図が書き換わっている
今回の災害から導かれる最も重大な結論は、地球の安全地図が変化しているということである。
人類はこれまで、過去の気温、降水量、河川水位、斜面崩壊、台風経路を基礎として、安全な場所と危険な場所を区別してきた。住宅、都市、道路、鉄道、発電所、港湾、学校、病院も、その前提に立って配置されている。
しかし、気候が変われば、過去の安全実績は将来の安全を保証しない。
これまで雪だったものが雨になる。凍っていた岩盤が緩む。存在しなかった氷河湖が生まれる。監視対象ではなかった小さな湖や斜面が崩れる。何十年も災害がなかった村が、一瞬で土石流にのみ込まれる。
安全な場所と危険な場所の境界線が動いているのである。
従来のハザードマップは、過去の災害を長期間にわたって積分した結果から作られている。しかし、気候変動によって自然環境の微分値、すなわち変化の速度と方向が変われば、過去の積分値だけを基礎にした安全地図は、現在の地球と合わなくなる。
「過去に起きなかった」という事実は、「これからも起きない」という証明にはならない。

