警鐘を行動へ変える

人類は、危険を知らなかったわけではない。科学者も、野口さんも、現地住民も警告してきた。衛星も変化を捉えてきた。国際会議でも繰り返し議論されてきた。

それでも災害は起きた。

最大の問題は、自然環境の変化の速度に対して、政治、行政、国際協力、インフラ更新の速度が遅すぎることにある。

必要なのは、警告を知識のまま保存することではない。

この警鐘を、まず山岳環境の継続的な観測につなげなければならない。

観測によって捉えた変化を、実効性のある警報へ。

警報を、住民の命を守る避難計画へ。

さらに、防災インフラへの投資、危険度の変化を織り込んだ土地利用、そして新しい国土設計へと結びつけていく。

同時に、被害への適応だけで終わらせず、その根にある気候変動を抑えるため、温室効果ガスの削減を加速させる。

そして最後は、この人類への警鐘を、私たち一人ひとりの具体的な選択と行動へ変えなければならない。

警鐘を聞くだけでは、未来は変わらない。観測し、備え、国土をつくり直し、排出を減らす。その一つひとつを、いま行動に移せるかが問われている。

水面に打ち付ける激しい雨
写真=iStock.com/gyro
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私たちの世界観も崩れた

今回崩れたのは、氷河と岩盤だけではない。

「気候変動はゆっくり進む」
「過去に安全だった場所は、これからも安全である」
「遠い国の氷河融解は、日本には関係がない」
「災害は起きてから復旧すればよい」

という、私たちの直線的な世界観も崩れた。

微分で見れば、地球環境の変化はすでに加速していた。

積分で見れば、熱、岩盤の劣化、社会的な脆弱性、対策の遅れが長年にわたって蓄積していた。

そして臨界点を越えた瞬間、連続的な変化が不連続な破壊へと転じた。

気候の急激な変化を受けて、地球そのものが変化している。地球の安全地図が書き換わっている。

だからこそ、私たちは変化する地球を前提として、文明、都市、インフラ、産業、エネルギー、国土を再設計しなければならない。

すでに手遅れになった変化もあるかもしれない。しかし、手遅れだと思って行動を止めた瞬間に、まだ回避できたはずの次の被害まで確定してしまう。

野口さんが、破壊されたターメ村を前に発した「諦めたら終わる」という言葉は、一つの村だけに向けられたものではない。人類全体に向けられた言葉である。

ネパールから鳴り響いている警鐘を、また一つの悲惨なニュースとして終わらせてはならない。

手遅れかもしれない。

それでも、手遅れだと思ってはならない。

気候変動に本気で歯止めをかけ、変化する地球に合わせて文明と国土を再設計する。

その警鐘を今ここで行動へ変えられるかどうか。それこそが、今回のネパールの氷河崩壊から人類に突きつけられた、最も重大な問いなのではないだろうか。