文明と国土を再設計する
地球の安全地図が変わっているならば、私たちは文明、都市、インフラ、産業、国土の設計を変えなければならない。
巨大な氷河湖だけでなく、小規模な氷河湖、氷河上部の岩壁、永久凍土、岩盤亀裂、河道閉塞の可能性まで、流域全体を一つのシステムとして監視する必要がある。
ハザードマップも、過去の危険区域を示す静的な地図から、気温上昇や地形変化によって危険地域がどう移動するかを示す「動的な安全地図」へ変えなければならない。
道路、橋、発電所、学校、病院、通信設備も、一つの谷や地域へ集中させるのではなく、代替経路、分散型電源、非常用通信を備え、一部が失われても全体が停止しない構造にする必要がある。
効率性だけを追求する文明から、壊れても機能を保てる文明への転換である。
場合によっては、これまで住み続けてきた場所からの移転も検討しなければならない。それは故郷、文化、共同体を失いかねない極めて重い決断である。だからこそ、補償、雇用、教育、文化の継承まで含めて設計する必要がある。
さらに、自然現象は国境を認識しない。ネパール側の氷河崩壊が中国側を襲った今回の災害が示すように、各国が衛星画像、危険斜面、氷河湖、河川水位を共有し、国境を越えた早期警戒体制を構築しなければならない。
適応と同時に、気候変動へ本気で歯止めをかける
地球がすでに変わり始めているのであれば、気候変動対策は手遅れであり、あとは適応するしかないという考え方に陥ってはならない。
確かに、すでに蓄積された温暖化の影響を、すべて元へ戻すことはできない。地域によっては不可逆的な変化も始まっている可能性がある。
しかし、「一部は手遅れかもしれない」ということと、「今から何をしても無意味である」ということはまったく違う。
気候変動は、手遅れか否かというゼロか一かの問題ではない。
温暖化がさらに進めば、超えてしまう臨界点が増える。災害の規模は大きくなり、危険地域は広がっていく。逆に、気温上昇を少しでも抑えれば、超えずに済む臨界点がある。回避できる崩壊があり、守られる村と命がある。
必要なのは、適応か緩和かという二者択一ではない。
変わってしまった地球を前提に文明と国土を再設計する「適応」と、地球がさらに危険な状態へ向かう速度に歯止めをかける「緩和」を、同時に進めることである。

