フェーズ別「AI時代の上司のマネジメント術」
我々は、これらを仕事の三つのフェーズに対応させて整理している。着手前に前提を整えること、途中で問いかけること、終わったあとに次へつなげること。それぞれ、メンバーが陥りがちな「決められない」「できているつもり」「やりっぱなし」への処方になっている。
「わかったつもり」は「説明させる」
筆者は、AIを仕事で使うにあたって、「妥当性」と「適合性」を区別することを推奨している。
妥当性とは、文脈を排除しても一定当てはまる範囲での「正しさ」のことであり、「適合性」とは、その場、そのクライアント、その会社とそのタイミングという具体的で固有の文脈における「正しさ」のことだ。AIは、妥当性は高いが適合性が低い成果を出すのが得意なツールである。だからこそ、固有の文脈を掴みきれていない部下や若手は、その2つを混同する。
固有の文脈、今、なぜそのタスクをするのかといった目的や求める成果水準などで「前提を整える」ことが必要であるし、「理由や根拠を尋ねる」ことは、その妥当性を適合性の勘違いを部下自身に気づかせる必要があるのだ。
認知心理学には、説明深度の錯覚(Illusion of Explanatory Depth)という概念がある(※1)。人は物事の仕組みについての自分の理解を過大評価しがちだ。たとえば私たちは自転車や洋服のファスナーがどう動くかを「わかっている」と感じているが、詳細な説明を求められた瞬間、その確信はもろくも崩れる。説明できないからだ。
重要なのは、この錯覚は説明させることによって壊れるという点だ。
整った成果物が手元にあると、人はそれを自分の能力の証拠として受け取ってしまう。この錯覚を破れるのは、成果物の背景を「問われた」瞬間である。なぜこの結論なのか。何を選び、何を捨て、この前提でよいと判断した根拠は何か。答えられなければ、そこに理解がないことが本人にも分かる。
AI時代には、上司が最後に赤ペンを持って、納品物の品質を保証するだけでは難しくなりそうだ。その代わりに、部下に品質を説明させることで、部下自身に気づかせていく。AI時代の役割の移動は、こうした文脈を勘案すれば得心できる。
※1 Rozenblit, L. & Keil, F. (2002) “The misunderstood limits of folk science: An illusion of explanatory depth,” Cognitive Science, 26(5), pp.521-562.

