求められる上司像が変わった
では、そのなかで部下の成果を引き出せているマネジャーは、何をしているのか。同調査は、AI環境(AIヘビー利用職場)と非AI環境(AI非利用職場)とで、部下のパフォーマンスへと効くマネジメント行動を別々に分析している。
分析できたサンプル数はやや限定的だが、その結果は、対照的だったので紹介したい。
非AI環境で圧倒的に効いていたのは、「迅速な判断」(標準化回帰係数0.703)と「品質保証」(0.481)である。方針を決め、上がってきた成果物の妥当性を確認する。仕事の入口と出口を押さえるゲートキーパーとしての役割だ。この二つの係数の大きさを見れば、非AI環境のマネジメントでは、この2つこそが大きな役割であったと言ってもよい。
ところがAI環境では、この構図が崩れる。「迅速な判断」の係数が落ち、代わりに現れたのは、「裁量の提示」、「学びへの接続」、「仕事の枠を示す」、「思考の深さを問う」である。そして「品質保証」は、有意な項目として姿を消す。
部下への「問い直し」が有効
より具体的に、上司は何をしているのかを探るために、より細かい行動の水準でも分析を行っている。
すると、最も影響が強かったのが、「出てきた案や結論について、理由や根拠を尋ねている」だった。品質そのものを保証するのではなく、品質の根拠を本人に語らせる。役割の移動が、この一項目に表れている。
それに続いて、影響していたのが、「うまく言葉にできない状態でも、急かさず待つ姿勢をとっている」、そして「求める成果物の水準(どこまでで十分か)を示している」である。以下、「うまくいった点・いかなかった点を、本人の言葉で整理してもらっている」、「方針を変更する際、その理由や影響範囲を説明している」などが並ぶ。
これらの要素に、成果物そのものを点検する行動は一つも含まれていない。尋ねる、待つ、示す、整理してもらう、説明する、促す、切り分ける。いずれも、部下が自分で考え、自分で確かめるように仕向ける行動である。
これらから示唆されることをまとめよう。
AI時代に有効なマネジャーがしているのは、出口での検品ではない。部下がAIと回しているループそのものを、現実と整合させながら潤滑に回すことである。同調査はこの役割をチューナーと表現している。ゲートキーパーが門番だとすれば、チューナーは調律師だ。自分で音を出すのではなく、音がずれていく場所に手を入れていくような役割である。


