それでもなぜ、ミシンの前に座るのか

ここまで読んで、「事業の失敗の話ですか」と思った方がいるかもしれませんが違います。会社の資本金には、まだ100万円ほど残っていました。ありがたいことに事業の売り上げはバズった後から右肩に伸びていました。事業として見れば、当時の北区の刺しゅう屋はようやく軌道に乗りました。

苦しかったのは、私の個人口座だけです。売り上げが立ってから入金されるまで時間がかかる。会社にお金が入っても、それはすぐに自分の給料には出せない。前年度の住民税は、事業の現状と関係なく来ます。これが、起業して初めてわかった構造でした。

でも、私が残高2000円台のときに頭の中にあったのは、この構造の話ではありませんでした。

こんなにお金がないのに、なぜ毎日ミシンの前に座っているのだろう。PayPayポイントで生きながら、なぜ明日もミシンを動かそうと思えるのか。それが不思議でした。

ミシンを使用する人の手元
写真=iStock.com/Oscar Requejo
※写真はイメージです

数字よりも強い仕事の「手応え」とは

外銀の月90万を捨てたのに、後悔はまったくありません。残高2000円台の画面の前で、その理由を考えてみると、答えはわりとはっきりしていました。

届いている実感があったからです。

お金があっても届いていない仕事は、いつか続けられなくなります。お金がなくても届いている仕事は、なぜか続けられる。届いている実感があると、人はもう一日だけ手を動かせる。仕事が続けられるかどうかは、数字よりも、その実感があるかどうかで決まると思っています。

今の仕事に手応えがないとしたら、数字の問題ではないかもしれません。自分の手から、誰かの生活へ、何かが届いているかどうかが見えていないのかもしれない。その問いを、一度今の仕事に向けてみてください。届いているものが見えた瞬間、仕事の景色は少し変わります。

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