セブン&アイHD傘下だった百貨店「そごう・西武」は2023年、海外ファンドのフォートレスに売却された。売却直前の総資産は4000億円を超え、純資産も267億円あったが、報道によれば株式の譲渡額は8500万円だった。なぜ名門百貨店の株は“タワマン以下”の値段になったのか。財務コンサルタントの村上茂久さんは「会計上の資産価値と、ファイナンス上の企業価値は別物だ。そごう・西武のケースを見ると、セブン&アイが手放した理由と、海外ファンドが描いていた計算が見えてくる」という――。(4回目/全4回)

※本稿は村上茂久『最高の教訓 倒産』(大和書房)の一部を抜粋、再編集したものです。

旧・西武百貨店池袋店
旧・西武百貨店池袋店(画像=Rs1421/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

そごう・西武の買収劇から3年

企業価値を高めることは、株主にとっても望ましい。理論上は、そう説明されることが多いでしょう。では、企業価値と株主価値はどう違うのか。改めてこの問いを投げかけられるとうまく答えられない人もいるかもしれません。

事業譲渡や再生の現場では、企業価値と株主価値が大きく乖離している場面が数多く見られます。特にファンドが関与する局面では、そのズレが顕在化しやすくなります。

そごう・西武の事例は、こうしたズレを象徴するケースです。事業としての価値、資産としての価値、そして株主にとっての価値。それぞれが異なる評価軸で語られる中で、企業の行き先が決まっていきました。

2023年8月31日、セブン&アイHDの傘下にあった「そごう・西武」の株式が、アメリカの投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)に売却されました

※著者註:フォートレスはかつてソフトバンクグループの傘下にありましたが、ソフトバンクグループは2023年5月に同社株式の約90%を、アブダビの政府系ファンド「ムバダラ・インベストメント」とフォートレス経営陣に売却しています。

報道によれば、その金額は8,500万円。いまや都内では1億円のタワーマンションも珍しくありませんから、老舗デパートが8,500万円と聞くと、ずいぶん安い金額だなと感じます。そごう・西武の株式は、なぜこれほど安い金額でフォートレスに売却されてしまったのでしょうか。

以下では、セブン&アイHDからフォートレスに売却されたそごう・西武について、ファンドのビジネスモデルも含めて考察をします。

純資産は267億あった…

まずは、そごう・西武の過去4期分の業績について確認しておきましょう。図表1はそごう・西武のP/L(損益計算書)から、営業利益および当期純損益の推移を示したものです。

そごう・西部 営業利益及び当期純損失
出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

そごう・西武は過去4年間の平均で100億円以上の当期純損失を計上しています。営業利益については、フォートレスに売却される直前の2023年2月期の決算では黒字化して25億円の利益が出ていますが、依然として業績が厳しいことに変わりはありませんでした。

次にそごう・西武のB/S(貸借対照表)を見ていきましょう。図表2は、同社のB/Sを図式化したものです。

2023年2月28日時点におけるそごう・西武の総資産は4,029億円。内訳としては、資産全体の14%を流動資産(565億円)が、86%を固定資産(3,464億円)が占めています。一方、負債・純資産側を見ると、流動負債と固定負債を合わせて負債が全体の93%を占め、純資産はわずか7%(267億円)です。

そごう・西武のB/S(2023年2月期)(単位:億円)
出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

純資産は株主に帰属する価値であり、会計上の簿価は267億円。今回のケースでは、この純資産が、フォートレスに8,500万円という金額で売却されたということになります。いったいなぜ、こんなことになってしまうのでしょうか?