地域住民から反対される…

まずは売り手であるセブン&アイHDの立場です。そごう・西武は当期純利益ベースでは4期連続の赤字です。さらにそごう・西武への貸付も、2023年7月末時点で1,659億円もあります。有限なリソースを成長分野に投資したいのはどの企業にとっても当然のこと。

セブン&アイHDが、注力すべき投資分野からそごう・西武を外して譲渡を決めたのは、致し方ない判断だったと言えるでしょう。実際、セブン&アイHDは2025年3月には、イトーヨーカードー等のスーパーマーケット事業もファンドであるベインキャピタルに譲渡をしています(厳密には、譲渡後にセブン&アイHDは、新設会社に40%の出資を行う)。

ただ、セブン&アイHDがそごう・西武を譲渡するとなれば、それは労働組合や西武池袋本店がある豊島区の地域コミュニティを巻き込む事態にもなるため、慎重に対応をする必要がありました。

仮に西武池袋本店等の価値が3,000億円近くあったとしても、セブン&アイHDがその金額のままでヨドバシカメラに売るのは、レピュテーション(評判)の観点から難しかったと考えられます。西武池袋本店等を3,000億円近くで売却できていたら、セブン&アイHDのもとには債権放棄をした貸付金900億円の一部は返ってきたはずです。

でも、そうしなかった(できなかった)ということは、地域住民の反対などステークホルダーを含めた対応の難しさがあったのだろうと推察できます。

外資ファンドが狙っていたこと

考察② フォートレスが裏で描いていた絵

筆者はリーマンショック前の2008年前後から5年間ほど、不良債権投資業務に携わっていました。不良債権投資とは、メガバンク等の金融機関が不良債権化したローンの債権を外資系ファンドに売却し、外資系ファンドはローンの担保である不動産等を売却して資金を回収するというビジネスです。

たとえば、銀行が企業に対して不動産を担保に10億円のローンを出したとします。当初は担保である不動産の価値が10億円あったものの、バブル崩壊により価値が5億円まで下がったとしましょう。銀行としては、そのまま担保を処分すれば5億円を回収できます。ですが実際には、レピュテーションやこれまでの関係もあり、これを実行するのは極めて困難です。

そこで銀行は10億円の債権を、外資系ファンドに対して4億円で売ったとします。こうすれば、銀行は6億円を回収することはできなくなるものの、すぐに4億円を回収できます。その後、4億円でローンを購入した外資系ファンドは、債務者と時間をかけて交渉し、担保を売却して、5億円を回収します。外資系ファンドからすれば、4億円でローンを仕入れ、担保物件の売却を通じて5億円を回収し、1億円の儲けを出す、という仕組みです。

フォートレスには、このような不動産関連の不良債権投資で数多くの実績があります。今回、フォートレスはヨドバシカメラと組んで、そごう・西武の企業価値を2,200億円とし、西武池袋本店等をヨドバシカメラに3,000億円弱で売却するという絵を描いたものと予想されます。