フォートレス、企業価値以上の借り入れのワケ

さて、株主価値(時価総額)8,500万円とはいえ、そごう・西武には借入があります。そのまま株式だけを8,500万円で購入したとしても、既存の債権者とのやりとりが大変になってしまいます。

そこでフォートレスは、そごう・西武の買収に際して約2,300億円をメガバンクから借り入れています。この借入には、株式価値8,500万円も含まれていると予想されます。

つまり、フォートレスは、そごう・西武の株式の時価8,500万円を手に入れるにあたり、メガバンクからのフルローンで対応したということです。こうすることで、フォートレスは既存の借入をすべてメガバンクのローンに置き換えるとともに、そごう・西武の株式も手に入れることができました。

また、セブン&アイHDはそごう・西武に対して有していた約900億円の債権を放棄しました。この有利子負債がそのままだと、株主価値はマイナスになってしまいます。だからセブン&アイHDは債権を放棄する必要があったのです。

なお先述のように、そごう・西武の企業価値2,200億円に対して、フォートレスがメガバンクから借り入れたのは約2,300億円と、企業価値以上の借入をしています。これはなぜでしょうか?

日本経済新聞の報道によれば、その理由は、銀行から借り入れた2,300億円のうち約200億円を、株式会社セブン・フィナンシャルサービスが51%を出資する株式会社セブンCSカードサービス(以下、セブンCSカードサービス)の株式買い取り資金に充てるためです。

不動産の価値は約3000億円だった…

セブンCSカードサービスは、西武系のクレジットカード業務を担っている企業です。おそらくフォートレスは、そごう・西武を買収するにあたり、セブンCSカードサービスの持分もセットで購入したのでしょう。セブン&アイHDとしても、西武系のカード会社を保有し続けていても事業展開の見通しが立たないという事情があったものと推察します。

考察① セブン&アイHDが西武池袋本店を3,000億円弱で売却しなかった理由

話はこれで終わりません。フォートレスは2023年9月1日、そごう・西武が保有する西武池袋本店等を3,000億円弱で株式会社ヨドバシホールディングス(以下、ヨドバシカメラ)に売却すると発表しました。

そごう・西武の企業価値は2,200億円と見積もられており、その中には当然、西武池袋本店の資産も含まれています。この資産価値が3,000億円近くあるなら、そごう・西武の企業価値も同様の金額になってしかるべきです。

にもかかわらず、そごう・西武の企業価値は2,200億円と算定され、フォートレスは8,500万円という株主価値でそごう・西武を買収した――。このディールはいろいろと謎が多く、ここからは推察の域を出ませんが、それぞれのステークホルダーの観点から状況を把握していきましょう。