会計的視点とファイナンス的視点の齟齬

ここまで見てきたP/LとB/Sはあくまで会計的な視点です。この会計的視点をファイナンス的に“通訳”することで、今回の買収額の秘密が見えてきます。

そもそも「会計における総資産」と「ファイナンスにおける企業価値」、そして「会計における純資産」と「ファイナンスにおける株主価値」はイコールではありません。

会計的視点とファイナンス的視点
出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

「企業価値」とは、ざっくりいうと、企業が将来生み出すと予想されるキャッシュフローの割引現在価値の合計額(事業価値)に、非事業性資産の時価(非事業価値)を合計したものになります。

イメージとしては、P/Lから将来生み出すキャッシュフローを予想し、現在価値に割り引いて合計したうえで、企業のB/Sの非事業性資産を時価で表現し、それを足し合わせたもの。それが企業価値です。

なお、この企業価値を計算する際によく使われるのが、EBITDAです。

※編集部註
Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略。金利支払い前、税金支払い前、有形固定資産の減価償却費及び無形固定資産の償却費控除前の利益を指す。買収価格の目安などとされる。

資産と同様、負債も時価で表現することができます。これが「負債価値」(もしくは、債権者価値)です。そして、企業価値から負債価値を引いたものが「株主価値」になります。

この株主価値は、上場企業における時価総額、未上場のスタートアップ企業ならばバリュエーション(Valuation)を意味します。

さて、話をそごう・西武に戻しましょう。

総資産の約9割が負債だった。

今回のそごう・西武のケースで考えると、会計上のB/Sにおける総資産は4,029 億円、負債は3,761億円で、そのうち有利子負債が2,938億円、そして純資産が267億円です。

一方で、2023年9月1日付の日本経済新聞は次のように報道していました。

「そごう・西武の企業価値を約2,200億円と算出したが、そごう・西武の有利子負債などを考慮して株式の売却額である譲渡額を8,500万円と見込んだ。
セブンが貸付金を放棄した後のそごう・西武単体の有利子負債は約2,000億円。セブンはそごう・西武の企業価値2,200億円から同社の有利子負債を差し引き、運転資本にかかる調整などを経た株式譲渡価額を8,500万円と見込む」

つまり、企業価値は2,200億円、有利子負債は約2,000億円となり、運転資本にかかる調整を踏まえて株主価値を計算すると8,500万円ということです。これを図で表すと次のようになります。

セブン&アイHDによる債権放棄後のそごう・西武の株主価値
出所:『最高の教訓 倒産』(大和書房)

そごう・西武の株式の持分が8,500万円で売られたとなると、非常に安く感じるかもしれません。

しかし正確には、企業全体としての価値は2,200億円と見込まれており、そこから負債価値2,000億円と運転資本の調整が入った結果、株主価値が8,500万円と算出された、ということなのです。

ただし、会計上のB/Sでは4,029億円の資産があるのに、企業価値はその半額近くになってしまっているということは、そごう・西武の価値がそれだけ低く見積もられているということでもあります。

その理由を端的に言えば、同社が将来生み出すキャッシュフローはそれほど多くないだろうと見なされているからです。