安全性を主張した発見者も鉛中毒に
話をミジリーとパターソンに戻しましょう。結論から言えば、ミジリーは鉛の危険性に気がついていました。なぜなら、ミジリー自身が鉛中毒だったからです。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Thomas_Midgley,_Jr.jpg
1923年以降、鉛入りのガソリンの需要増加に応えるため、エチル社は1924年に化学プラントを建設し鉛入りのガソリン製造を開始しました。数カ月間で138人の現場作業者が中毒にかかり、二桁の人数が死亡するという事態になりました。
批判を浴びたミジリーは記者会見を開催し、安全性を証明するために四エチル鉛を自分の手に注いで、1分間吸引するパフォーマンスを行いました。またエチル社から資金提供された科学者たちも「鉛は自然の一部」と安全性を主張しました。
鉛が自然界にも存在しているという主張は、間違っていません。パターソンだって自然の中に鉛がいくら含まれているかで地球の年齢を測定しようとして、人工の鉛が邪魔だったことで今回の鉛汚染に気がついたのですから。
全世界で1億人が健康被害を受けている
鉛は別に自然界では珍しい物質ではありません、地球上に数多く存在します。しかし自然由来の鉛の多くは地中深くに眠っており、昔の人は曝露が少なかったのです。
そこでパターソンは昔と比べて、人類がどの程度鉛を曝露しているのかの調査を開始しました。アメリカで最近亡くなった人の骨に含まれる鉛の割合と、1600年以上前のミイラの骨の鉛を測定し見比べました。すると、現代のアメリカ人の骨からは、古代人の実に1000倍の量の鉛が検出されたのです。
WHOが出した調査によると、知的障害の3分の1は鉛による影響だとされ、2018年の研究では、鉛によって毎年アメリカの25万人が心臓発作で亡くなっているとされます。全世界でなんと約1億人が鉛の被害を受けていると推定されています。後の調査によれば、世界的にも鉛汚染の90%が有鉛ガソリンによるものだということが分かりました。
鉛の大気汚染にいち早く気づいたパターソンは、すぐさま環境運動を開始。このおかげで、現在では車のガソリンに鉛を添加することは禁止されています。彼は、この鉛禁止活動を、マンハッタン計画の罪滅ぼしだと考えていたとか。
またパターソンは紆余曲折あって、地球の年齢が約45.5億年と算定することに成功しました。この数字は半世紀以上経過した現在でも、訂正されることなく生き続けています。
