「43歳で会社を閉じて戦場に行く」
起業から約2年が経ったある日、夜半過ぎに帰宅するとベッドは空っぽで、妻は娘を連れて家を出て行った。ひもじい思いをさせたから当然の結末ではあったが、少しの幸せも与えられなかった家族に対しては、今でも後悔しかない。
だが、皮肉にも家庭を失った翌年、僕の会社は軌道に乗り始める。2000年代初頭に始まった「VIPカーブーム」にあやかったのだ。
VIPカーブームとは、トヨタのクラウンやセルシオ、日産シーマなどの国産高級セダンをベースに、車高を極端に下げたり(シャコタン)、大径ホイールを履かせたり、派手なエアロパーツを装着したりといったカスタムが大流行した現象のこと。我が社でカスタムしたVIPカーが車雑誌の表紙に採用されたことが契機となって、依頼が次々と舞い込んだ。そこで独自のカスタムパーツを売り出すと、これも大ヒットとなった。
会社は急成長し、35歳でマイホームを建て、貯蓄も1億円を突破した。正規ディーラーでベンツも購入し、アメックスとVISAのプラチナカードも手にした。
そして38歳になったとき、僕は従業員たちを前にこう告げた。
「43歳で会社を閉じて戦場に行く」
いくら金を稼いでも幸せにはなれなかった
カネであれだけ苦労したのに、いざ羽振りが良くなると使い道に困った。いかにして暇を潰すかばかりを考えて、仕事の時間以外はとにかく退屈でしかたない。ヒマを潰すためにカネを遣って豪遊しても、充足感は得られない。
そんな生活をしていると、いつからか僕はこんなことを考えるようになった。
〈いったい人生ってなんやねん?〉
〈なんのために必死こいて仕事をして、生きんとアカンねん〉
人は幸せになるために仕事をしてカネを稼いでいるはずなのに、少なくとも僕の場合は、富を築いても幸せは感じられなかった。では、何のために生きているのか。実はただ、生存本能に従って生きているだけなのではないか。
だとしたら、「生」を最も感じられる場所に身を投じたい。理解し難いかもしれないが、熟慮の末に僕が導いた結論が「戦場に行く」ということだった。
〈死ぬ間際、生存本能に打ち勝ったと神様を笑ってやろう〉
僕はそう決意した。
出発を43歳としたのは、戦場で精一杯生ききるためには、準備が必要だと思ったからだ。仕事を続けながら海外に渡航して射撃の訓練をし、基礎体力を向上させるため、登山にも挑戦した。休日を自主的な訓練に充て、戦場で戦うという目標に向けて歩み始めたのだ。


