「高くて置けない」が「在庫ある?」に一変

そして2005年には、父親の原酒をつかってブレンドしたイチローズモルトの「カードシリーズ」を発売することになる。そのなかのひとつが「キング・オブ・ダイヤモンズ」で、冒頭で紹介したように2006年に『ウイスキーマガジン』で最高得点を獲得することになる。

「カードシリーズ」のパッケージをまとめたポスター
撮影=プレジデントオンライン編集部
「カードシリーズ」のパッケージをまとめたポスター

父の原酒をそのまま瓶詰めするつもりはなかった。「ウイスキーの魅力を伝えるには、味のバリエーションがいる」。肥土社長は、シェリー、コニャック、バーボンと新たに樽を調達し、状態のいい父の原酒を移し替えて後熟をかけた。同じ原酒から、樽ごとにまったく違う個性が立ち上がる。まず売り出したのは、4種類だった。

ブレンダー室で原酒のテイスティングをする肥土社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
ブレンダー室で原酒のテイスティングをする肥土社長。ブレンダー室で作業をするときはいつも白衣を着ているという

「それがきっかけで、問い合わせが殺到するようになりました。当時のイチローズモルトは種類によって7400円から2万円くらいの価格帯でしたが、『高くて置けない』と言っていた酒問屋さんが『在庫ある?』と訊いてくる状況になりました」

肥土社長は嬉しそうに語った。廃棄寸前だったウイスキーが、大人気商品となったのだ。

父の原酒で日本一、自分の原酒で世界一に

じつは、肥土社長はこの賞に応募していない。当時彼がしていたのは、日本中の酒店やバーを一軒ずつ回り、試飲してもらいながら「発売したら置かせてください」と夢を語り続けることだけだった。

そのなかで、『ウイスキーマガジン』の日本代理店が「ジャパニーズウイスキー特集」の候補を集めに動き、リストに紛れ込んでいたカードシリーズが最高得点をさらってしまった。

しかも、ベンチャーウイスキーの快進撃はそこで終わらない。受賞歴のあるウイスキーは、父が残した羽生蒸留所の原酒から生まれたものだった。廃棄寸前の樽を引き取り、独自のウッドフィニッシュで磨き上げたとはいえ、原酒そのものは肥土社長が一から造ったものではない。

だが、カードシリーズの最高得点を取ってから11年後の2017年、秩父蒸溜所で自ら蒸留した原酒を使ったシングルカスク「イチローズモルト 秩父ウイスキー祭2017」が、ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)のシングルカスクシングルモルト部門で世界最高賞に輝いた。

父の原酒を守り抜いた男は、自らの手で一から造り上げたウイスキーでも世界一をつかんだのだ。

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