「こんなのは団子だ」、厳しい職人の言葉

寿司ロボットといっても、酢飯シャリの上にネタがのった寿司が自動的にできあがってくるわけではない。寿司ロボットがつくるのはシャリの部分、つまり“シャリ玉”だけである。このシャリ玉にあらかじめ切って用意してある魚などのネタをのせるのは人の手でやる。のせるだけなので、本格的な職人の手は必要ない。

現在の寿司ロボット。ロボットから提供されるシャリ玉を取り、寿司ネタを乗せていく
提供=鈴茂器工
現在の寿司ロボット。ロボットから提供されるシャリ玉を取り、寿司ネタをのせていく

しかし、そのシャリ玉が難しい。開発当初の試作機は、ただ酢飯を型に詰める単純なものだったため、助言を頼んだ寿司職人からは「団子みたいで、寿司じゃない」と厳しく指摘されてしまう。団子のままだったら、現在のように寿司の大衆化が実現していたかどうかも疑わしい。

じつは、筆者は寿司ロボットが実用化されてから、生前の創業者に取材し、寿司ロボットのつくるシャリ玉について説明してもらったことがある。

「口に入れたときにシャリがほろっと崩れてネタと馴染むようでなければ、旨い寿司にはならない。寿司ロボットは、そういうシャリ玉にするために工夫を積み重ねてきました」と、創業者は言った。

現在の「寿司ロボット」。パックに詰められているお寿司にも対応している
提供=鈴茂器工
現在の「寿司ロボット」。パックに詰められているお寿司にも対応している

理想のシャリ玉にするために創業者は寿司屋に通って研究し、試行錯誤を繰り返していく。そして、シャリ玉を握るための微妙な力加減を実現し、シャリと接する機械の金属部分にシリコンゴムを貼り付けて人の掌の柔らかさを再現するなどの工夫で、コメ粒を潰さずにふんわりとしたシャリ玉にすることに成功する。そこまでたどりつくのに、約5年もの時間がかかっていた。

「いまでは職人が握ったのと変わらない、それどころか職人が握るより旨いシャリ玉だという評価もあるくらいです」と、谷口社長は嬉しそうに言った。だからこそ、寿司の大衆化は実現し、鈴茂器工も過去最高売り上げを更新できてもいる。

回転寿司市場の急拡大を支えた

回転寿司の店舗数は、業界調査の数字によれば2022年時点で約4220店にのぼり、市場規模は7252億円にもなっている。10年前の2011年度の市場規模は4636億円だったから、すでに1.5倍以上に膨らんだことになる。直近の推計では、市場規模は8000億円を超えるまでになっているのだ。

その急成長を支えたのが、寿司ロボットなのである。

さきほども紹介した「廻る元禄寿司」が、1958年にそのスタイルを確立してから半世紀以上が経つ。それでも、回転寿司が一気に全国に広がっていくのは、ずっと後のことだった。寿司を握るのは職人で、その職人が圧倒的に不足していたからだ。

寿司職人の世界には「飯炊き3年、握り8年」という言葉があり、一人前になるには10年以上もの修行が必要だといわれてきた。店舗を増やそうにも、それだけの職人を抱えるのは現実的でなかったのだ。

寿司ロボット第1号機が完成したのは1981年。1980年代に入って回転寿司チェーンが次々と全国展開を本格化させていく時期と、ぴったり重なる。鈴茂器工の寿司ロボットは、その回転寿司ブームの波に乗って、一気に全国へと広がっていった。

現在の「寿司ロボット」で握ったシャリにまぐろのネタを乗せている様子
提供=鈴茂器工
現在の「寿司ロボット」で握ったシャリにまぐろのネタをのせている様子

シャリ玉さえ機械が握ってくれれば、ネタをのせるのは人の手で間にあう。本格的な職人技は必要なくなったのだ。スシローなどの大手チェーンが全国に店舗網を広げられたのも、寿司ロボットがあったからこそである。