「最後のチャンス」に飛びつくのはハイリスク
読者の中には、立川さんと同じように「定年前後で持ち家を購入する否か」で揺れている方もおられるかもしれません。「賃貸は出ていくだけのお金」「高齢になると賃貸物件を借りづらくなる」といった不安もあるでしょう。
しかし、手持ち資金が少ないままライフプランも描かずに「最後のチャンス」に飛びつくのは極めて危険です。
60歳でローンを組む場合、返済期間は現実的には最大でも15年程度が限界です。手取り月収に占める住居費の理想割合は25%。立川さんの場合、60歳以降の手取り月収18万円の25%は約4万5000円。これが月々の返済上限の目安となります。仮にこの金額で15年返済するなら、年1%の変動金利で元本は約750万円、利息を加えると総返済額は810万円になります。2000万円の物件を買うなら、購入時点で頭金として現金1300万円前後が手元にあることがマストです。
私は、60歳前後での住宅購入を考えるなら「ローンを組まずに買えるだけの現金を用意してから」が鉄則だと考えています。ローンありきで60歳で家を買うのは、どうしても無理が生じやすい。立川さんのような状況であれば、なおさらです。
では、家を買う最後のタイミングはいつかと聞かれれば、50代前半が目安でしょう。50代前半にローンを組めば、返済期間を20年弱取って70歳で終わります。そして、やはり頭金となる現金を準備して65歳の定年までに返済のめどをつけておく、という設計が理想でしょう。60歳前後になって「さあどうしよう」と焦っても、選択肢はかなり狭まってしまいます。
家計黒字化とNISAへの投資
さて、ライフプラン表を見た立川さんは、「当分は現在の賃貸物件に住み続け、まずは家計を絞りながら資産を増やしていこう」との方針に。
そこで直近の家計を確認すると、手取り月収22万5000円に対し、支出は26万4000円で月3万9000円の赤字が出ていました。
まずは最も見直しやすい通信費からメスを入れ、大手通信事業のスマホを格安スマホに乗り換えることで月1万7000円から7000円に削減。食費や交際費などの変動費も収入に見合った水準に抑え、半年かけて改善を積み重ねた結果、月3万9000円の赤字だった家計が、月8000円程度の黒字に転じました。
次の課題は、iDeCo・NISA・現金貯金の資産配分。現在、資産全体の約77%がiDeCoに偏っています。iDeCoは節税効果が高い優れた制度ですが、60歳まで引き出せない融通性の低さが弱点。目下、立川さんは手元の現金が50万円程度しかなく、万一の「生活防衛資金」が圧倒的に不足しています。
まずは生活費の7.5カ月分を確保することを最優先に、家計から残った8000円を貯めつつ、iDeCoの掛け金を現在の月2万3000円から減額して、その分をNISAや現金に振り分けました。
固定:流動性の資産分散が老後の選択肢を広げる
立川さんは収入が月37万円から22万5000円へ激減しても、かつての独身貴族体質からなかなか抜け出せなかった。それだけに、iDeCoの制度が始まった頃から20年以上掛け金を拠出してきた意義は大きい。
ただ、資産配分をiDeCoに集中させてしまったために、必要なときにお金を動かせなくなったのは大きな誤算だったといえます。もしiDeCo・NISA・現金の配分を意識していたなら今より住宅購入が現実的になっていただろうと思うと、もったいない気がしてなりません。
昨今の上がり相場で、資産の大半をiDeCoなどに集中させている方は増えています。しかし、人生いつまとまったお金が必要になるか分からないもの。08年のリーマンショックのように相場が急落し、下落相場が数年間続く時期が再到来する可能性も十分にありえます。万一に備えて生活防衛資金をしっかり確保した上で余剰資金で投資をすることを強くおすすめします。



