ポジティブに扱われがちな言葉だが、「人間的」とはAIではないという意味であり、AIよりもエラーを起こしますよという意味でもある。人間は常に合理的に思考し行動するわけではなく、合理性から逸脱する高い潜在的可能性を備えている。したがってそもそも合理的ではない存在たる人間たちが日々集まる場所、つまり組織において、その日々の営みや意思決定が不合理なのは道理である。

『社内政治の科学 経営学の研究成果』 木村琢磨 著 日本経済新聞出版/2000円+税
『社内政治の科学 経営学の研究成果』
木村琢磨 著
日本経済新聞出版/2000円+税

特に会議前の根回しとか気配りとか、忖度や派閥やゴマスリとか、そんなのに乗せられてすぐいい気分になってしまう上司とか、取り立てられて出世していくアイツとか。不合理・不条理の最たるものとして思い浮かべられ、イメージがよろしくないのが「社内政治」ではある。社内政治とは悪徳であり非倫理的で不潔、本質的な実力とは無関係でチョー日本的、そんなネガティブなイメージはないだろうか?

ところが「社内政治は会社というシステムの欠陥ではなく、その構造に本質的に組み込まれている現象なのです」と、いきなり4ページ目にして看破するのが本書だ。会社の人事歓送迎会ピークの3月第4週には丸善丸の内本店のビジネス(経営)部門にて1位も獲得(日経BOOKプラス調べ)。成功者かつビジネス書巧者が多い丸の内で断然読まれているというところに、本書の静かな凄みがある。インテリビジネスパーソンの間で静かな人気を博す理由は、おそらく圧倒的に知的なユーモアだろう。

経営学の学術論文が高い世界的評価を受けている本気の日本人学者による本書は、一見、正統派(で面白くない)ビジネス書であるかのような素っ気ない表紙の印象を裏切り、淡々と冷静な文体で、会社における人間模様を皮肉たっぷりに描いている。章によっては電車の中で笑いを堪えながら読んでいると涙が出てくるレベル。「実は社内政治は日本特有のものではなく、世界の経営学では主要な研究テーマである」「社内政治とは目標達成のために社内で非公式な手段を使うことであり、健全な調整機能」「それを“科学”すれば社内政治だってハック可能である」、そして「社内政治は成熟したリーダーシップに不可欠である」との新奇性あるメッセージの面白さに硬軟取り交ぜたメディアが気づき、あちこちで賑やかに取り上げ始めた。

組織とは人間臭さのるつぼ。人間同様、基本的にはエラー製造装置である。実際、ガバナンスのグリップが弱い組織にびっくりするような不正や汚職が発覚するケースは後を絶たない。非合理な集団の中の異なる意図やニーズをまとめ、価値を生む意思決定をするための調整機能たる「社内政治」力、過度に潔癖になることなくむしろ実力のうちとして身につけたい。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年5月29日号)の一部を再編集したものです。

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