「どうすれば自分らしい仕事ができるか」は、誰にも切実な問いである。本書はその問いに正面から向き合う自己啓発書だが、私が専門とする地球科学研究の視点とも驚くほど共通する。単なる努力論に終わらず、「価値は環境で決まる」という冷静な方法論を軸に体系的に構成されている。

『「最高値で選ばれる自分」の作り方戦略』
『「最高値で選ばれる自分」の作り方戦略』松下公子 著 ぱる出版/1500円+税

タイトルの「最高値で選ばれる自分」となるには、まず「選ばれる理由」を掘り起こし、他人にも可視化されなければならない。たとえば、ダイヤモンドを思い浮かべてほしい。ダイヤモンドは炭素からできているが、炭素そのものは珍しくなく鉛筆の芯も木炭も同じ物質からなる。一方、ダイヤモンドが特別視されるのは、地球の深部200kmという特殊な環境で生まれ、火山の噴火で地上へもたらされる偶然を経て、人類に発見されたからだ。天然鉱物のダイヤモンドにはこうした「文脈」があり、最高値の自分とはこのダイヤモンド的な存在の作り方にほかならない。

著者はテレビ局のアナウンサーを経て、アナウンサー志望者を内定させるコーチとして起業し、現在はメディア発信の指導サポートを行っている。そのポイントは、自分の能力を無理に高めるより、どこで評価されるかを考えることにあると説く。同じ力を持つ人でも置かれる場所が違えば評価が大きく変わるからだ。

これは地球科学でも同様である。地震の研究は数あるテーマの一つにすぎないが、防災や安全という文脈に置かれた瞬間、人命に直結する重要な知識となる。つまり、価値は中身だけで決まるのではなく、使われる場面によって大きく変わるのだ。

本書で印象的なのは、他人と比べられない「ポジション」を作る発想である。自然界の進化でもよく似ている。地球上の生物は強い者同士が戦い続けて生き残ったわけではない。むしろ誰もいない環境や役割、いわゆる“すき間”を見つけた生物が長く繁栄してきた。深海や砂漠、高山といった過酷な場所に適応した生物が現存するのが好例だ。本書は人のキャリアにおいても地球生命と同様の戦略が有効だと教えてくれる。

著者は“時間”を味方につけることの重要性も説く。いま結果が出なくても積み重ねた経験や実績は、後になって大きな価値を生む。地球科学も同じで、長い年月を経て積み重なった地層は、地球の過去を解き明かす貴重な手がかりとなる。地道な努力が後になって評価される視座は、研究に限らず人に勇気を与えてくれる。

本書はセルフブランディングのプロが、現場で再現性のある具体的な方法をわかりやすく提示する。「想定外」に満ちあふれ変化し続ける社会に暮らすビジネスパーソンが、自分の立ち位置を見直す良い道しるべとなるだろう。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年4月17日号)の一部を再編集したものです。

鎌田 浩毅(かまた・ひろき)
京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授

1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学教育。著書に『日本史を地学から読みなおす』(講談社現代新書)、『大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)など。第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)受賞。

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