最近では国際情勢のほうがあまりに騒然としているので記憶が薄れがちだが、2025年10月の自民党総裁選出以来、特に経済面では、高市早苗首相は獅子奮迅の活躍ぶりを見せていた。新総裁就任直後から期待で日経平均は急上昇。だが「サナエノミクス」と呼ばれたその政策は、アベノミクスの「三本の矢」のようなわかりやすいたとえがなく、いま一つピンときていない国民が多いのではないか。
本書はそれを非常に明解に説明してくれる好著だ。
といっても、意表をつくアクロバチックな政策があるわけではない。ここしばらくの経済無策のために、企業は需要が先細りになると思って投資しない。だからその分を政府が補って先の見通しを改善し、もっと積極的に投資できるようにしよう、というだけの話だ。教科書で学んだケインズ経済学をご記憶の方は「基礎の復習はいいから、はよ本題に」と読み進むうちに本が終わってしまい、拍子抜けするかもしれない。
でも、サナエノミクスというのはまさに基礎通りにやろうという話なのだ。アベノミクスもそうだったけれど、まだ各方面への配慮が多く不徹底だった。それを財政出動の明言や重点投資対象の産業分野の明示で明確に打ち出す。それだけだ。
だがアベノミクス以降の政治は、その基礎すらできていなかった。それどころか財政崩壊だ、ハイパーインフレだ、人口減少でお先真っ暗、年金も破綻一直線、と不安を煽り、だから増税をという一点張り。不安を煽り、国民や企業の財布の紐を締めさせるばかりだった。
そうした各種のお先真っ暗議論に対しても、本書はていねいに反論する。財政破綻なんて数字のトリック。年金はGDP成長率が1%あれば十分保つ。ハイパーインフレなんかありえないし、人口問題も、むしろインフラ投資を急ぐべき理由だ。これらすべてを、数字で裏付けつつわかりやすく語られる。
あたりまえに聞こえるかもしれない。だがそう思わなかった人が多いからこそ現状がある。しかし株価や高市政権支持率は、それをわかっている人も多い証拠だ。本書でそういう人が増えれば幸甚。
現状での不安材料は、ホルムズ海峡の状況と同時に、日本銀行の動向。隙あらば利上げで金融引き締めを画策する日銀総裁をどこまで抑えられるやら。そういうお遊びは、金融財政の両方が足並みそろえて日本経済を復活させてからにしてほしいんだが……。
だがまずはできる範囲のことをやろう。それは何もむずかしいことではない。教科書の定石通りにやればいいだけ、というのを本書で納得して、それを政府がはっきり目指そうとしてくれることに、まずは希望を抱こう。あとは国際情勢さえ落ち着けば……。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年5月1日号)の一部を再編集したものです。
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