老老介護が抱える問題

今年夫は88歳に。松竹さんは67歳になる。65歳以上の高齢者が、65歳以上の高齢者を介護する状態を「老老介護」という。

「今でも私たち夫婦はお互いに『今幸せかどうか』を確認し合っています。夫は『夏子が何でもやってくれて、俺は幸せ者だ。愛している』と言葉に表してくれますし、『ありがとう』ともよく言ってくれます」

そんな松竹さんの今一番不安なことは、お金のことと、松竹さん自身の体力・気力のことだと言う。

「問題は、『介護するにもお金がかかる』ということです。私たち夫婦は、国民年金だった期間が長かったので、年金が多くはありません。持ち家なので家賃は要らないですが、最近の物価高で食費が重くのしかかります。贅沢はしませんが、必死にやりくりしています」

貯金は数百万円あるが、生活は2人で月20万円ほどの年金で回している。

「ヘルパーさんは、夫の食事の用意や夫の部屋の掃除はやってくれますが、1日の大半を過ごすリビングや夫婦の寝室の掃除はやってもらえないなど、制限が多いです。私が入院などすれば頼めますが、夫はもう、1人では暮らせません。最近は、私自身の体力と気力の限界を感じていて、浴室や換気扇の掃除などはもう、1年以上やっていません」

元気な頃は夫がやってくれた、高いところの掃除や電球交換などは、シルバー人材センターに依頼した。

「気持ちの面でつらいのは、子供返りしてしまった人としてなら夫と話し合えますが、大人として話し合うのは難しいということ。悲しいです」

介護者として大事にしていること

現在の夫は、短時間の留守番はできるが、その間に1人で飲食することはできない。

「デイサービスのない日は、夫が起きている間は“フルタイム介護状態”です。だから自分を楽にするために、あえて夫には『施設に入りたくないなら私の言うことを聞いて』と言って、自分の時間を作ることに努めました。同じ屋根の下にいても、別の部屋で軽く昼寝をしたり、YouTubeを観たり、趣味に没頭したりしています。それでもたまに、『どこにいるの〜?』と大声で探されますが……」

松竹さんはうつ病になって退職した後、38歳でフルートを習い始め、60代になってからは、チェロを習い始めた。

「素晴らしい先生との出会いもあり、日々充実しています。レッスンの間、夫はデイサービスです。お土産の菓子パンやチョコパイを楽しみにしてくれています。今、思い切り音楽に打ち込むことが、私のエネルギーになっています。主治医からも、『介護者が何かをあきらめてはいけない』と言われています」

袋に入った2つの小ぶりなアンパン
写真=iStock.com/Asobinin
※写真はイメージです

厚生労働省による最新データ(2022年)によると、男性の健康寿命は72.57歳、平均寿命は81.05歳。松竹さんの夫は88歳で要介護2なら、かなり元気なほうだ。

松竹さんは最期まで夫を在宅で介護したいと考えている。

「主治医からは『要介護3になったら特養を』と勧められていますが、特養に入る=ラッキーというわけにはいきません。特養に入れば、最低限、国の決める基準でスタッフが配置され、食事とおむつの世話、お風呂は週2回と決められ、ケアは最低限になってしまいます。かといって、有料老人ホームにも現状、夫を預けたいホームはありません。お金があったとしても、豪華なシャンデリアは必要ない。一番は、介護スタッフのきちんとした処遇、そして、その人たちが心からケアしてくれる環境。それがあってこその介護だと思います」

介護は被介護者が優先されがちだが、筆者はむしろ介護者を優先し、介護者が納得のいく介護をすることが重要だと考えている。なぜなら、被介護者を看取った後も、介護者の人生は続くからだ。

近年は、特養にもさまざまな施設が登場している。一部の施設を見て全てを判断するのではなく、限界を迎える前に既成概念を取り払い、実際に複数の施設に足を運んでみてほしい。

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