次々に襲いかかる試練
夫は、前職のケースワーカーを41歳の時に辞め、44歳からNPOで働き始めていたが、労働時間が長い割に給料が少なかった。そのため、妻である深謝さんは社会福祉法人に勤務し、義両親との二世帯住宅のローンを夫と半分ずつ負担していた。
2018年。高3まで漫画に没頭したものの、新入生の圧倒的な才能に打ちのめされたため、卒業と同時にそれを封印してきた深謝さんだったが、あるBLドラマを見たのがきっかけで、“2次創作沼”にハマった。
この時、深謝さんは48歳。30年ぶりに漫画の封印を解いた深謝さんは、気付けば38ページの漫画を書き上げ、勢いのままイベントに参加し、90ページ近い同人誌を発行。
描けば描くほど「毎日漫画だけ描いて生きていきたい」という欲望を抑えられなくなった深謝さんは、「オリジナルの漫画を描いて、商業デビューすること」を目標に掲げ、暇さえあれば漫画を描くように。
ところが、そんな深謝さんに、次々に試練が襲いかかる。
2019年、二世帯住宅の下の階に住む85歳の義母に、認知症の症状が出始めたことが発端だった。
最初は何度も同じことを聞かれる程度だったが、やがて、ほんの1分目を離した隙に迷子になったり、看板に正面から激突したり。驚いた深謝さんが義父に確認すると、義母は、服薬、食事の仕度や片付け、洗濯など家事すべてを87歳の義父が担わないと生活できない状態になっていた。
義母の認知症状を受け止めきれない義父と義母が頻繁に言い争うようになり、仕事でほとんど家にいない夫に代わり、深謝さんが2人の仲裁をすることが増えていった。
義母の認知症、新型コロナ、父親の心臓発作
そこへ2020年の新型コロナ感染症流行がやってくる。緊急相談窓口となった社会福祉法人に勤める深謝さんの業務量は激増する。
さらに、母親と離婚後、岡山で一人暮らしをしていた79歳の父親が、心臓発作を起こして救急搬送されたという知らせが叔父(父親の弟)から入る。
大阪で同じく79歳の母親と同居中の妹と共に、岡山の病院に駆けつけると、父親は緊急手術を受け、一命を取り留めていた。ホッとしたのも束の間、妹とともに父親の実家を訪れた深謝さんは愕然。
「父の家はゴミ屋敷状態になっていました。部屋にはお酒の瓶や缶が散乱していて、一番古いものは母と離婚した年のものでした。父はセルフネグレクトに陥り、飲まないとやってられなかったのかもしれません」
離婚後、帰郷した父親には、古くからの人間関係や居場所があった。しかし飲酒運転による免許返納や、視力低下のため外出が減ると、父親はアルコール依存に拍車がかかる。心臓発作も、アルコールの過剰摂取によるものと推定された。
遠方で暮らしているため、退院時の支援ができない深謝さんと妹は、なんとかゴミ屋敷の片づけを最低限終えると、病院のソーシャルワーカーに父親を介護サービスに繋げることをお願いして帰宅した。
そんなところへ職場で早期退職制度が始まり、深謝さんは悩んだ。
「私が仕事を辞められないと思っていた理由は、住宅ローンの支払いが大きかったです。でも、あんなに丈夫だった父が倒れ、コロナ禍真っ只中で、『人生何が起こるかわからない。自分だっていつ倒れるか、いつ死ぬかわからない』ということを痛感しました。何より、母に対して『子どもを言い訳に使うな、卑怯だ』と感じていた自分が、ローンや介護を理由にして本当にやりたいことを放棄したら『母と同じじゃないか』『言い訳をしたり、誰かのせいにしたりして、悔いながら死ぬのはイヤだ』と思ったのです」
この時、49歳だった深謝さんは、早期退職して、漫画一本で勝負していく人生を選択。最短ルートで通用する技術を身に付けるため、デビュー実績の高い2年制の専門学校に行くことを決意した。

