初めての要介護認定
1990年代半ばに松竹夏子さん(仮名・現在66歳)も夫(現在87歳)もうつ病で仕事を辞めた。夫婦の収入は主に語学学校の職員として長年働いた夫の年金とわずかな貯金のみだったが、何とか食いつないだ。楽しみは、飼っていたチワワ3頭の散歩、そしてたまに行くドライブや旅行だった。
2010年。72歳になった夫は、月一度の通院投薬は継続するが、ようやく病気が落ち着き始めたため、野良犬だった犬を保護する「保護犬」の活動を始めた。
2020年。夫は80代に入り、足腰の痛みを強く訴えるようになった。しかし、整形外科を複数受診するも、いずれも「異常なし」と診断され、精神科医から漢方薬を処方されるのみだった。
「年齢とともに気難しく、わがままが目立ち、自己中心的になりました。歩道を歩いていて自転車に邪魔されると憤慨して、自転車に乗っている人に直接抗議したり、同行する私に怒りをぶつけたりすることが多くなりました。私はそれが嫌で、一緒に散歩に出かけなくなりました。勝手に散歩して、勝手に憤慨していればいいと思いました」
精神科医から「要介護認定を受けたらどうか」という話が出始めたが、夫は強く拒否するため、なかなか受けることができなかった。
そして2024年。松竹さんが、「要介護認定を受けることを主治医から強く勧められているんだけど、受けても必ずしも利用しなくても良いから、受けるだけ受けてみない?』と伝えると、夫は渋々受け、結果は「要介護1」だった。
「要介護認定の結果が出た後は、『使わないと権利が消滅するから、週に一度だけ訪問リハビリに来てもらおう』と説得しました。ちょっと嘘をつきました」
夫は抵抗したが、松竹さんは訪問リハビリを依頼。だが本人にリハビリの意欲は全くなく、「必要ない」「自分で歩く」「いつまでやるんだ」という調子だった。
だが、このリハビリがきっかけで、夫は左右の足の長さに大きな差があることに気づく。
「訪問リハビリの理学療法士さんが言うには、『変形性股関節症』だそうです。これは脚が短くなったのではなく、骨盤に大腿骨がめり込んだ状態で、手術しか治す方法がないと言われました。でも、夫は精神的に不安定で、整形外科を受診することは難しく、手術なんて無理です。そこで私は、専門の靴屋さんを探し、自宅で計測してもらい、『補高靴』を作っていただきました。とても丁寧な対応で、比較的安価に短い脚をサポートする靴が出来上がり、夫は愛用しています」
この補高靴(整形靴)の作成費用は、外反母趾、リウマチ、障害足など、足の疾病の治療や改善のために、医師が診断に基づいて治療上、靴型装具が必要と認めた場合に、健康保険制度が利用できるとされている。
「でも実際は、医師が処方する『装具としての靴』は15万円程度かかります。保険適応のハードルはとても高く、かつ、一足しか保険がきかないので屋内用も必要な場合は私費になります。専門の病院は予約制の上、紹介状が必須。予約を取るにも何カ月もかかることがわかり、受診はあきらめました。最終的には、持っている靴の修正で済み、15万円もかかりませんでした」
この靴を履くようになって、夫は曲がった背中がだんだんまっすぐに戻っていった。

