物心ついた時にはすでに“家庭内イジメ”は始まっていた。女性は幼少期から両親に「お前は川で拾った」と罵られ、暴力を受け、下着や服もきちんと買い与えられなかったため、小遣いを貯めて自分で買った。10歳上の姉にも叩かれた。それから50年後、21歳上の夫と暮らす女性のもとに親の代理人である弁護士から非情な通告が届いた――。(前編/全2回)
ベッドの上に有線で充電中のスマートフォン
写真=iStock.com/Tomasz Śmigla
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「シングル介護」とは、配偶者や親の介護をたった1人で担っているケースを指す。厚生労働省によると、2023年度の家族・親族による高齢者虐待の相談・通報件数は1万8000件あまりとなり、過去最多を更新。2022年の国民生活基礎調査では、家族介護者は全国で約653.4万人(2021年時点)と推計され、主な介護者と要介護者との関係は、同居家族が45.9%、別居家族が11.8%(2022年時点)。同居家族の内訳は、配偶者が22.9%、子が20.7%、子の配偶者が7.5%となっている。

たった1人で介護を担う「シングル介護」は年々増加しており、介護時間の長期化や精神的・身体的負担の大きさが不安視されている。その当事者をめぐる状況は過酷だ。「一線を越えそうになる」という声もたびたび耳にしてきた。私の取材事例を通じて、社会に警鐘を鳴らしていきたい。

12時間以上行方不明になった夫

電話は鳴らなかった。

老年科への通院を終えると夫(86歳)は通常、15時頃に「迎えにきてほしい」と連絡してきた。だが、この日(2025年1月)は電話がかかってこなかった。夫はスマホを忘れたり、連絡なしに歩いて帰ってきたりする時もあるのでしばらく待つが、一向に帰宅しない。

松竹夏子さん(仮名・当時65歳)は不安になり、病院に電話をした。すると、「ご主人は、11時頃には薬局を出ています」と。「何かあったのかもしれない」という気持ちが一気に膨れ上がり、ケアマネジャーに連絡。その指示通り、警察に届けを出した。

「ケアマネさんと警察から、『ご主人が帰ってくるかもしれませんし、下手に動き回って連絡が取れなくなるといけないので、奥さんは家にいてください』と言われ、夫の写真を提供すると、19時頃には捜索の範囲は全国に広げられました。婦警さんに、『認知症の人は隠れてしまうことがあるので、念のため家の中を見せてください』と言われ、トイレやクローゼットの中、布団の中など、全部見せました。もしかして、私は疑われていたのでしょうか?」

ひと通り家の中を見せ終わり、別の警官から「誰かに相談しましたか? 息子さんとか」とたずねられたため、「いいえ。子どもはいません」と答える。

いったい、夫はどこへ行ってしまったのか。松竹さんは途方に暮れるほかなかった――。