義両親の「主たる介護者」は?

アルバイトを始めるために履歴書を用意した深謝さんだったが、「これが本当に最後の機会」と決めて、ほぼ実録の介護漫画を描くことにした。

しかし、描いている間も、義両親が暮らす1階から、夜中に突然大きな物音や言い争う声が聞こえる。その度に深謝さんは手を止めて急いで降りていく。

衝突はいつも、義母の認知症が原因だった。

「認知症のため、記憶が10分くらいしかもたなくなっていた義母は、昼間に通院拒否しながら、夜中に突然病院へ行きたいと言い出すなど、時間的感覚もなく、言うことがたびたび変わりました。それを受け流す余裕がない義父は、『だから言っただろ!』と理詰めで返して、声を荒げてしまう……というパターンを繰り返していました」

深謝さんは義父の介護負担を減らすため、地域包括支援センターに相談し、ヘルパーやデイサービス、施設入所などの選択肢を義両親に提案。しかしいずれも義母が拒否し、実現せず。時間だけが過ぎていった。

自画像
深謝さん提供
制作活動する深謝さん

初めて夫にキレた夜

そして2024年1月。2月に編集部へ持ち込むためのマンガの制作が佳境に入っている夜中にも、義両親が言い争いを繰り返した末に、「僕だって限界だよ!」と義父が机を激しく叩くのを目撃し、危機感を抱く。

この頃、福祉業界で管理職をしていた夫は、毎晩深夜帰宅、休日出勤という状況。「疲れているだろう」と遠慮してなかなか話ができずにいた深謝さんだったが、たまりかねて相談する。

「認知症だから仕方がないのに、お義父さん、いちいち『言っただろ!』ってお義母さんに怒るんだよ。毎晩のように揉めてるから心配で。どうしたらいいんだろう?」

すると夫は

「う~ん、2人とも昔からそうだったからなぁ……」

という薄い反応。

「1週間ぶりにようやく顔を見て話ができたのですが、夫と自分の認識の違いに愕然としました。『え? それだけ?』って……。今まで福祉サービスを調整したり、間に入ってクッションになったり、ローンを半分払ったりしてきたけど、嫁は一銭も相続できないのに、『なんでこんなに一生懸命やってるんだ?』と。なんだか急にバカらしくなりました」

夫の反応にカチンときた深謝さんは、初めて夫にキレていた。

「そっちにとっては“いつものこと”だから平気かもしれないけど、こっちはメチャクチャメンタル削られてるんだよ! 大きい音がするたびに無事か見に行って、いつも気持ちが休まらなくて……。普通に眠れないし、漫画もろくに描けてない。夫婦喧嘩をずっと聞かされ続けるって、児童だったら虐待だよね? これって私に対する虐待じゃないの? もう在宅は無理だよ!」

一気に捲し立てると、夫は申し訳なさそうに言った。

「……そっか。ごめん。いろいろ負担かけてたね」

その様子に、深謝さんは少し冷静さを取り戻す。

「いや、前の仕事で福祉制度とかを知ってるだけに、良かれと思っていろいろやってきたけど、義両親に嫁が施設を勧めるとか、なんだか追い出そうとしてるみたいだからもうやめる。最後の引導は独り息子の君が渡してください」

この日をきっかけに、夫は義両親の施設入所に向けて動き始めた。