政治家も経済人も芸能人も、自分の大望、野心の素晴らしさを周囲に伝える際に頼るのが明治維新である。確かに明治維新は、西洋列強に怯えていた幕末の日本が、世界有数の大国へと変貌を遂げる、その出発点だ。輝かしく見えても、おかしくはない。

現実に起きた明治維新が、最良に近い政変だったことは確実だが、同時にそれは幕末の政治的階級だった武士たちの大多数の期待を裏切るものでもあった。おかげで明治初期の日本には、いつ爆発するともしれない政治的不満が渦巻いていたのである。政府は当然のように、反体制運動に神経を尖らせていた。

そこで密偵たちの登場となる。今風に言えば、スパイだ。所属先は、維新政府の組織替えとともに、弾正台から正院監部、内史分局へと衣替えをするが、仕事は同じだった。著者は日本近代史の必携資料に加え、早稲田大の大隈重信文書の中にあった密偵たちの報告書などの一次資料を頼りに、その姿を再現する。

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