イギリスとアメリカとの関係が険悪に
パナマ文書が世界を揺るがせている。両大洋をつなぐ運河で知られる中米の小国パナマにある法律事務所モサック&フォンセカの内部資料がリークされたのだが、この法律事務所、世界中の顧客のためにタックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを作ることを主たる業務としていたのだ。
リークされたのは顧客リストで、つまりは国際的な法網の抜け穴を利用して課税を逃れようとしていた大金持ちのリストということになる。そこに中国の習近平国家主席の親族、ロシアのプーチン大統領の「友人」そしてキャメロン英首相などが登場したことで、国際的な大スキャンダルに発展したというわけである。
このリーク事件、それ自体としても十分に面白いのだが、ここに国際政治の底流ともいうべき、ある事実を加えると、さらに面白くなって来る。
少し遠回りになるが、説明しよう。世界のマスコミはまったくと言ってよいほど触れようとしないのだが、オバマ政権になってから、イギリスとアメリカとの関係が急速に疎遠になって来ているのだ。疎遠どころか、時に険悪なやりとりさえ見られる。
日本の読者には、これは意外に思われよう。英米は話す言葉も同じだし、アメリカの主流はホワイト(白人)、アングロ=サクソン、プロテスタントのいわゆるWASPつまりはイギリス系だから、両国は同胞のようなものではないのか。
確かに、英米の軍事、諜報の分野での協力関係は緊密だ。「特別な関係(スペシャル・リレーションシップ)」という言葉も、英米両国で人口に膾炙している。だが、そうはいってもイギリスとアメリカはどちらも大国であり、独自の利害を有している。決して一枚岩とはいかないのである。
しかも、実はアメリカ人の多数が親英派というわけでもない。まず、アメリカの白人で最も人口が多いのは、ドイツ系だという現実がある。ドイツが統一されてヨーロッパの大国となったのは明治維新の3年後、1871年のことだが、それまでは分裂状態であり、ドイツ人の多くは小国の悲哀を経験していた。それを嫌って膨大な数のドイツ人がアメリカに移住し、新天地で大家族を築いていったのである。そして当然ながら、ドイツ系アメリカ人は2度の世界大戦でアメリカがイギリスに味方してドイツと戦ったことを恨みに思っている。