「無農薬スーパー」で県外からも集客

ショッピングセンターがライフスタイルを提案する場へと進化していくなか、藤が丘にも新たな目玉となる店舗が登場した。1996年12月にオープンした「マザーズ藤が丘」である。

有機野菜の宅配システム「らでぃっしゅぼーや」を運営する「日本リサイクル運動市民の会」と東急の共同企画で誕生したこの店は、日本初の100%有機・無添加食品スーパーとして注目を集めた。

再開発にあたって閉鎖されたマザーズの入り口
筆者撮影
再開発にあたって閉鎖されたマザーズの入り口

店内には独自の厳しい環境保全型生産基準を満たした約2000品目が集められ、農薬の使用状況などの情報公開も徹底された。当時は有機農産物がマイナーな存在だったが、食の安全性への関心の高まりもあり、その先進的な取り組みは大きな話題を呼んだ。

駅前のスーパーといえば、通勤客など地元の人がターゲットとなる「平日型」が一般的である。しかしマザーズは異例の広域集客力を誇った。オープン1カ月過ぎには1日の来店者が1200〜1500人に達し、週末の売り上げは平日を2〜3割も上回った。安全な食を求める消費者が、都内の23区や多摩地区をはじめ、県外からも車で来店するほどの盛況ぶりだった。

マザーズは県外からも顧客を惹きつける強力な核店舗として機能した。ショッピングセンターの命運は核店舗が握っていると言っても過言ではない。マザーズは、藤が丘ショッピングセンターに新たな賑わいをもたらしたのである。

「長寿モール」という稀有な存在に

筆者は全国各地の「廃墟モール」を視察しており、廃墟化には競合施設の存在やモータリゼーションの進展、核テナントの撤退などの複数の要因が絡み合っていると分析している。

そして「廃墟モール」の大半は、1980年代後半~2000年代に開発されたものである。1970年代以前に開発されたモールはすでに幕を下ろしているか、もしくはリニューアルを経て活気を保っているものが多い。

1967(昭和42)年にオープンし、リニューアルを重ねた青葉台東急スクエアNorth
1967(昭和42)年にオープンし、リニューアルを重ねた青葉台東急スクエアNorth

現在の藤が丘ショッピングセンターは、廃墟モールの様相を呈している。しかしそれは再開発が決まってテナントが撤退したからであって、上記のような要因で廃墟化したわけではない。むしろ、1967(昭和42)年から当時の姿を残したまま営業を続けてきた「長寿モール」という稀有な存在なのである。

2012(平成24)年にオープンしたSouth1
筆者撮影
2012(平成24)年にオープンしたSouth1

藤が丘駅をはじめ、田園都市線沿線は大きな転換期を迎えている。横浜市は、2002(平成14)年1月に「青葉区まちづくり指針」を策定。その後、2013(平成25)年3月に「田園都市線駅周辺のまちづくりプラン」が策定され、2020(令和2)年3月に改定された。このプランにより、藤が丘駅を含む7駅の整備が進んでいる。

青葉区以外の多摩田園都市においても、たとえば鷺沼駅前ではショッピングセンターのフレルさぎ沼が2025年4月に営業終了し、市街地再開発事業が動き出した。

工事中の旧フレルさぎ沼
筆者撮影
工事中の旧フレルさぎ沼

沿線全体が次の時代に向けた新陳代謝を始めているなかで、東急のショッピングセンターの原点である藤が丘ショッピングセンターも再整備が決まった。地域の人々に日常の利便性を提供してきた「長寿モール」は、次世代のまちづくりへとバトンを渡す名誉ある終焉を迎えようとしている。

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